社会・経済活動におけるリスクが多様化・複雑化する中で、リスクの予兆把握による国や企業活動のレジリエンス強化をめざし、東京大学は2023年4月に デジタルオブザーバトリ研究推進機構を設立しました。日立製作所は本機構との共同研究を通じ、実世界データの観測・分析と生成AIを連携したデジタルオブザーバトリ技術の研究開発を進めています。
2025年12月1日、本機構の第3回フォーラムとワークショップが東京大学駒場リサーチキャンパスにて開催されました。フォーラムでは地政学的な緊張の高まり、保護主義の台頭、気候変動の激甚化、インクルージョンなど、現代社会が直面する複合的リスクに対するデジタルオブザーバトリの意義とともに、データとAIエージェント活用の可能性が示されました。そのフォーラムの模様と、各研究チームの成果報告の概要を紹介します。

開会挨拶
リスクが連鎖する世界で求められる総合知

フォーラムの開催にあたっては、まず東京大学デジタルオブザーバトリ研究推進機構の機構長を務める喜連川 優特別教授が開会挨拶に立ち、本機構の設立経緯を振り返りながら、めざす研究の本質について語りました。喜連川機構長は、大学が社会に対して果たす役割の一つとして提言を行うことが重要であるとする一方、提言が量産され、活用されないまま忘れ去られていく現状があると指摘し、その問題意識から、成果が実社会に届くような研究のあり方を模索している中で、機構の設立に向けた日立製作所との対話を開始したと述べました。

対話の中で共有された課題としてとりわけ大きかったのは、コロナ禍で露呈したサプライチェーンの脆弱性でした。部品一つ足りないだけで全体が止まってしまうという単純だけれど切実な問題に対し、事前に予測、回避できる余地はないのか。また、物の流れだけでなく、人権侵害や不公正な労働と結びついた生産過程も可視化し、サプライチェーンの健全化に資することも重要である、といった問題提起がなされました。

ウクライナ戦争、ガザ情勢、保護主義の台頭など、世界各地で地政学的緊張が高まり、リスクがグローバルに連鎖する様相を強めています。個別の専門家は存在するものの、リスクの波及を統合的に捉える枠組みは乏しいため、経済、法、国際政治、LLM(Large Language Models)、農学、気候変動など多様な東京大学の叡智を結集し、デジタル技術によって世界の変動に対し、観測・理解・対応する総合知が、今まさに求められています。本機構を開かれた知の結節点とすべく、多くの研究者に参画してほしいと喜連川機構長は呼びかけました。

画像: 東京大学デジタルオブザーバトリ研究推進機構 機構長 喜連川 優 特別教授

東京大学デジタルオブザーバトリ研究推進機構 機構長 喜連川 優 特別教授

続いて、フォーラムを共催する日立製作所 執行役副社長の阿部 淳が挨拶に立ち、東京大学と日立製作所が進めてきたデジタルオブザーバトリ研究においては、単一組織では到底解けない高度で複雑な課題に対し、東京大学の文理融合の知が不可欠であると述べました。

企業を取り巻く環境は、サプライチェーン混乱、地政学的リスク、規制強化など急激な変化に晒されており、従来の経験や勘に基づく意思決定では限界があります。こうした状況下で日立は、状況に応じた判断や提案を支援する「AIエージェント」に注目。複数のAIエージェントが連携することで変化へ柔軟に対応し、業務や社会システムの高度化をサポートすることが期待されています。

その前提条件としては、データを安全かつ信頼できる形で共有する基盤が不可欠であり、経済産業省が中心となって進めている、横断的なデータ連携・システム連携に向けた官民協調イニシアチブ「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の意義を述べました。そして、「データ連携基盤とAIエージェントが結びつくことで、社会課題の解決に向けた新たな方策や、より高度なサービスの創出が期待されています。本日のフォーラムがその可能性について深い議論を交わし、皆さまの知見を結集する場となることを期待しております」と結びました。

画像: 日立製作所 執行役副社長 阿部 淳

日立製作所 執行役副社長 阿部 淳

フォーラム趣旨説明
これまでの研究で蓄積してきた知を俯瞰

次に、本機構の副機構長を務める東京大学 生産技術研究所の豊田 正史教授が登壇し、機構の全体像と今回のフォーラムの趣旨を説明しました。本機構は、東京大学の8部局、経済学、法学政治学、総合文化、情報理工学、農学生命科学、未来ビジョン、生産研、先端研が参加する文理融合体制をとっているほか、大学内に閉じた研究ではなく、日立製作所の研究所とも密接に連携し研究を進めている点が特徴です。

画像: フォーラム趣旨説明 これまでの研究で蓄積してきた知を俯瞰

研究対象とする社会リスクは、「経済・通商」、「地政学」、「気候・環境」、「社会・制度」の大きく四つに整理され、保護主義、紛争、気候変動、インクルージョンといった多様な課題を扱っています。いずれのリスクも、いつ、どこで、何が引き金となって大きなショックに発展するか予測が難しく、各研究チームは、貿易統計、産業連関表、ニューステキスト、船舶データ、農業・気候データ、サーベイデータなどを活用し、予兆検知や影響分析に取り組んできました。

本機構全体としてどのような知が蓄積されてきたのか、2023年から取り組んできた研究成果を、このフォーラムで紹介します。

各研究チームによる概要報告

(1)グローバル市場リスク予兆検知と新規機会提案を実現するデジタルオブザーバトリ技術の新たなる発展に向けて

日立製作所 研究開発グループ主管研究員 兼 デジタルオブザーバトリープロジェクト プロジェクトリーダの直野 健より、日立におけるデジタルオブザーバトリ研究の位置づけと、約2年8か月の研究成果を報告しました。日立グループは新経営計画「Inspire 2027」において、環境・幸福・経済成長が調和する「ハーモナイズドソサエティ」の実現を目標に掲げており、そのためには社会活動を的確に観測するデジタルデータの観測所(オブザーバトリ)が重要になると位置づけています。

東京大学との共同研究では、2030年のサプライチェーン管理のあるべき姿として、平時のリスクポイント明確化、危機時の影響最小化、危機発生後の通常モードへの早期回復の3点を掲げています。それらの実現に向け、多種多様なオープンデータや商用データを紐づけて可視化することにより、サプライチェーンの強靱化をめざしています。
ここまでの研究では、サプライチェーンを不安定化する15のリスクのうち、半数を超える8項目を扱ってきました。

画像: (1)グローバル市場リスク予兆検知と新規機会提案を実現するデジタルオブザーバトリ技術の新たなる発展に向けて

資源高騰リスクについては、要因の一つとして挙げられる紛争鉱物(武装勢力などの資金源となっている鉱物)に注目し、紛争地点と鉱床情報を重ね合わせて可視化するとともに、紛争の予兆をニュース分析から把握できることを実証しました。また、経済対立につながる関税リスクについては、法制度やニュースキーワードの時系列分析を通じ、関税発動前の兆候が把握できることを実証しました。

研究開発グループでは、生成AIを活用し、部品名称やオープンデータから製造拠点を推定する「ディープインサイト推定技術」も開発し、従来は把握が困難だった2次以降のサプライチェーンのリスク情報を明確化することに取り組んでいます。この技術と観測データを組み合わせ、将来のビジネス機会の探索などにも研究を拡張しています。
さらに、次なるステージへ向け、複数のAIエージェントを連携させることで複雑に連動するリスク事象への対応をめざします。

(2)デジタルオブザーバトリ研究推進機構の概要と基盤

東京大学 生産技術研究所の豊田 正史教授は、基盤チームの取り組みを紹介しました。基盤チームは多様な社会活動を観測可能にする基盤技術として、貿易統計データと国際産業連関表などのデータの収集と蓄積、データ収集・分析プラットフォームの構築、関係省庁・機関への分析結果提供を担っています。

画像: (2)デジタルオブザーバトリ研究推進機構の概要と基盤

貿易統計データと国際産業連関表などを用いた研究では、主に3テーマに取り組んでいます。まず一つは「サプライチェーンの分析可視化システム」です。国際産業連関表を可視化することにより、産業セクター間の直接的・間接的な相互関係の分析などを可能にしました。また、古澤泰治教授のチームと共に一般均衡貿易モデルの分析結果のマッピングと可視化にも取り組んでいます。

二つ目は「LLM(Large Language Model)を用いた貿易異常検知・説明システム」です。国連の貿易統計データ「UN Comtrade」のデータを日次で取得し、異常が検知されると、複数の生成AIがニュースソースを検索・統合し、その背景要因を説明するシステムです。
三つ目の「貿易データ分析AIエージェント」もLLMを用いており、自然言語で対話的に貿易データを分析できます。人間が分析の方針を伝えると、分析設計からSQL(Structured Query Language)実行、結果解釈までを自動化。専門家以外でも複雑な分析が可能になっており、多くの方々に利用していただきたいと豊田教授は呼びかけました。

(3)サプライチェーンレジリエンスの一般均衡分析

東京大学 大学院 経済学研究科の古澤 泰治教授の研究チームは、グローバルサプライチェーンを記述する一般均衡貿易モデルを構築しました。多数の国、多数の財(産業)を組み込み、関税・非関税障壁の変化が、各国における国内生産、貿易を通じた各国の労働需要、実質所得などに与える影響を推計できるモデルです。36か国・22産業を対象に、中間財貿易と最終財貿易を分けて考えることができる構造を採用しています。

このモデルを用いて2025年8月時点でのトランプ政権の相互関税を想定したシミュレーションを行ったところ、米国、中国、日本を含むほぼすべての国で実質所得を減少させる結果となりました。重要なのは、関税が中間財価格を押し上げ、生産費の上昇を通じて自国経済にも悪影響を与える点です。

今後は、関税政策の短期的影響を推計するモデルや、特定資源の輸出停止を受けた代替措置やR&D(Research and Development)の動きも組み込んだ長期モデル、また、より細分化した産業分類に基づいた細かな供給制約の世界的な波及効果なども推計できるモデルの開発をめざしていきます。

(4)テキスト分析を用いた貿易規制の予兆把握に関する研究

東京大学 大学院 法学政治学研究科の伊藤 一頼教授と塩尻 康太郎客員准教授の研究チームは、ニューステキスト分析を用い、特に米国の貿易規制を予兆段階で捉えるシステムの構築に向けた三つの取り組みを実施しました。
まず、第1次ならびに第2次トランプ政権下での米国のニュース記事を対象に、貿易規制発動前と発動後のキーワードを観察、推移を分析した結果、実際の関税発動前から関連キーワードの出現頻度が上昇していることが確認され、早期把握の可能性が示されました。

画像1: (4)テキスト分析を用いた貿易規制の予兆把握に関する研究

次に、予兆の確実性を高めるため、キーワード分析と異なるアプローチとして、米国の政策決定に影響を与える重要な政治経済的要因も加えて複合的にリスクを評価する枠組みを構築しました。それらの推移を観察することで貿易規制のシグナルを精度よく検知する手法の開発に取り組んでいます。

さらに、多面的な社会変動を捉えるため、多様な情報源を共通で扱える分析パイプラインを構築しました。分析パイプラインは、個別テキストの分析と関連データ抽出、それらを時系列で集計しトレンドを計測、結果の可視化という3段階からなります。この手順をプログラム化し構築した分析プラットフォームは、生成AIを活用したインタラクティブな分析、リスク算定結果の時系列表示、算定根拠の説明文表示などの機能を持ち、相対的リスク評価を可能にしています。
今後は予兆把握の精度向上に向けた分析手法の改善、分析プラットフォームの利便性・信頼性向上に向けた開発を続けていきます。

画像2: (4)テキスト分析を用いた貿易規制の予兆把握に関する研究

(5) グローバルバリューチェーンに対する政治・社会リスクの把握と予測

東京大学 大学院 総合文化研究科の阪本 拓人教授は、武力紛争や人権侵害、地政学的な競合といった政治・社会リスクがグローバルバリューチェーンに与える影響を分析しています。
政治・社会リスクは、個別の事象に対する研究は行われているものの、データが分散し、互いに不整合なため、多様なリスクを網羅的に捉えることが困難です。また、データが集約的で、粒度の細かい情報を集めることが難しい、ニューステキストからリスクイベント情報を手作業で抽出しているため、リアルタイム性に欠けるといった課題があります。

そこで、宮尾 祐介教授のメディア分析チームと共同で生成AIを用いてニューステキストからリスクイベントを自動抽出する取り組みを進めているほか、既存データを用いてリスクイベントの発生を事前予測するモデルの構築に着手しています。既存のデータ駆動型モデルの検証なども行いつつ、国際関係や地域研究などの専門知を取り込み、予測の解釈、説明も可能にするモデルをめざしています。

さらに、リスクイベントの検出と予測に有用な、信頼できるテキスト情報源を調査・選別し、データ取得する取り組みも進めています。
今後は、引き続き粒度の高いリスクイベントデータの自動生成や予測モデルの高精度化に取り組むとともに、経済安全保障分野のみならず平和・開発・人道分野などへの貢献も視野に研究を進めていきます。

(6)テキスト情報源からのサプライチェーン関連イベント認識技術の開発

東京大学 大学院 情報理工学系研究科の宮尾 祐介教授は、阪本 拓人教授のチームと共同で、ニュースなどの各種テキストデータからサプライチェーンに影響を与えうるリスクイベントを自動的に抽出し、その影響を予測するとともに説明可能な形で提示する技術を研究しています。

昨年度は、テキスト情報源からリスクイベントを自動抽出する技術として、紛争情報にフォーカスし、ルールベース手法とLLMを組み合わせてニュース記事から日時・場所・死傷者数などの詳細な情報を抽出・構造化するシステムを構築しました。本年度は、広範なリスクイベントを定めたガイドライン「PLOVER」に基づき、紛争に加えて人権侵害やデモなど、より広範なリスクイベントを対象とした汎用的なイベント抽出技術の開発を進めています。

リスクイベントがサプライチェーンに将来与える影響を予測し、自然言語で説明する技術については、既存のサプライチェーンデータを基に架空シナリオを生成してベンチマークとして利用し、説明生成タスクの評価を行いました。テストデータによる評価では、大規模モデルほど性能が高い傾向は見られたものの、全体として性能は限定的であり、さらなる改善が必要であることが明らかとなりました。

今後は、リスクイベント抽出精度の向上と汎用化、影響説明生成技術の高度化を進めるとともに、自動抽出されたリスクイベント情報を阪本教授の予測モデルに入力するといった連携を模索していきます。

(7)金融・物流・人流データ分析によるレジリエンス研究――AISデータを中心に

東京大学 大学院 情報理工学系研究科の山口 利恵准教授は、AIS(船舶自動識別装置)データを用いた海上輸送の流れを分析しています。
武力衝突をはじめとする社会の動きには、事前に潜在的なイベントが発生していると推測されるものの、その観測は困難です。しかし、世界の物流の大部分は海上輸送に依存していることから、研究チームでは資源の確保や戦闘準備といった潜在的なイベントが発生すると海域状態が変化するという仮説を立て、AISデータから海域状態の異常を検知し、武力衝突などの兆候の事前把握する技術について検証しました。

AISデータを用いると、特定海域における船舶の滞留、航路変更、通航量の急減などを定量的に把握することが可能となります。研究チームでは、海上交通の要衝であるホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾)を対象に、2024年7月から2025年6月の1年間、約8000隻の船のAISデータの分析を行いました。その結果、2回の顕著な海域状態の異常が検出され、それぞれが地域の軍事的緊張が発生する数日前に発生していることから、それらの早期兆候を表しているという推察が得られました。

この分析結果は、海域状態の異常度が、ニュースなどのテキストに表れる前の潜在的な周辺リスクを把握する早期指標として機能しうることを示しています。
今後は、他の海域にも分析対象を拡大し、早期警戒における海上輸送分析の可能性を示していきます。

(8)食料安全保障に向けたグローバルサプライチェーン分析、農業生産リスクの空間解析・遺伝解析

東京大学 大学院 農学生命科学研究科の岩田 洋佳教授らは、日本の食料自給率がカロリーベースで40%を下回り、気候変動や農業の担い手減少といった環境変化が進む中、国内生産と海外輸入の両面から食料安全保障を考えることの重要性を背景とした研究に取り組んでいます。

食料安全保障に向けたグローバルサプライチェーン分析では、多国間国際貿易モデルを用い、バシー海峡北上ルートの輸送コストが25%上昇した場合を想定したシミュレーションを実施(バシー海峡北上ルートの貿易量をデータから把握することはできないので大胆な仮定に依存)しました。その結果、東南アジア発の加工食品は輸入が大幅に減少し、国内生産を増やしても供給不足となり価格が上昇すること、肥料や小麦では輸入先のシフトが起こる一方で国内生産増は限定的であるなどの予測が示されました。

農業生産リスクの空間解析・遺伝解析については、岩手県の農業共済(NOSAI)などのデータを解析し、圃場や集落のレベルでの作付転換の実態から農業経営体の意思決定過程を分析しました。保険制度や地域条件が経営判断に与える影響を可視化するとともに、リモートセンシングと組み合わせることで広域的な土地利用変化の把握を進めています。

さらに、農業共済データと長期の育種試験データを統合し、LLMを活用して災害リスクに強い品種特性を抽出するなど、現場の知見を構造化する試みも進めています。今後は、これらの成果を統合し、外部環境・国内構造・品種技術を結びつけた食料安全保障戦略の分析・提案へと展開していきます。

(9)気候変動とその適応策が社会経済活動に与える長期的な波及効果を推計するための基礎的開発

東京大学 未来ビジョン研究センターの川崎 昭如教授らは、気候変動の影響が特に社会経済的に脆弱なグローバルサウスで深刻化しているものの、その影響評価方法の研究が進んでいないという問題意識から本研究に取り組んでいます。

研究前半では、国際産業連関表と各国・地域の産業連関表、社会統計データを統合したデータベースを構築し、CO₂排出や水・土地利用、生態系影響などの環境負荷のサプライチェーン経路を通じた国内外への波及について分析しました。特に中国を対象に、省別産業連関表と統計データを統合し、IPCCの気候変動シナリオと組み合わせることで、将来の気候変動が中国全体および省レベルの産業・環境負荷に与える影響を分析する手法を構築しました。一方で、産業連関表によるトップダウン分析には、財・サービス単位での地域影響評価には限界があることも明らかになりました。

そこで研究後半では、水災害に着目したボトムアップ型アプローチを採用し、治水投資などの気候適応策が、被害軽減にとどまらず、地域経済の発展や貧困削減といった長期的な社会経済効果をもたらすことを定量的に示すことをめざしています。具体的には、日本の歴史的な治水事業を対象に、因果推論を用いてその波及効果を定量化するフレームワークの構築を進めています。
これを、将来の気候適応・防災分野の公共投資を計画する際に、社会経済的効果の観点からの評価を実施するツールの開発につなげていくことを計画しています。

(10)障害インクルーシブな組織づくりへの取り組み――企業・大学・行政機関を対象に

東京大学先端科学技術研究センターの熊谷 晋一郎教授らの研究チームは、当事者研究の知見を基盤とし、組織の生産性や構成員のウェルビーイングに資する仕組みを、エビデンスに基づいて明らかにする研究に取り組んでいます。

企業を対象とした研究では、職場のメンタルヘルスやエンゲージメントに関わる指標として心理的安全性、知識共有、謙虚なリーダーシップの三つの評価尺度を設定し、複数企業の従業員調査を通じてそれらの妥当性を検証しました。その結果、謙虚なリーダーシップがメンバーの心理的安全性を高め、プレゼンティーズム(不調を抱えつつ出勤し生産性が低下している状態)を低減させることが示されました。リーダーの謙虚さを高めるアプローチについては、当事者研究を職場に導入する介入研究を実施し、現在は改善効果を確認するためのデータ解析を行っています。

行政機関を対象とした研究でも、法務省と連携し同様の枠組みで調査を行った結果、同様の傾向が確認されました。この結果をふまえ、刑務所の現場改善や、幹部職員向けの当事者研究ワークショップ、研修会などの取り組みを実施しています。

大学では、東京大学バリアフリー推進オフィスに蓄積された支援面談記録を分析し、困りごとの類型化を実施しました。併せて、自然言語処理による面談内容の類似検索機能と困りごとの主観評価と共有機能などをベースとしたインクルーシブサポートシステムの開発を進め、継続的かつ動的な支援体制の構築をめざしています。今後は全学的なインクルージョンサーベイを実施し、大学全体のDEI(Diversity, Equity, Inclusion)の課題把握と改善につなげていきます。

総評・閉会挨拶

最後に、喜連川教授より、総評と閉会の辞が述べられました。
課題やリスクが巨大化、複雑化する現代においては、単一分野の知識では対応できず、多様な専門知を結びつける接着剤が不可欠であり、その役割を担うことがAIエージェントへの期待です。
現時点では各チームの研究が分散している印象かもしれませんが、来年度は融合的なソリューションなども示せるよう努力してまいります。今後の成果にご期待ください。

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