Society 5.0が実現された2035年の未来社会では、社会の進む方向はどのようにして決められていくのでしょうか。2025年に開催された大阪・関西万博「未来の都市」パビリオンでは日立とKDDIが共同で「未来は自分たちで変えられる」をテーマに、市民参加型の社会を体験できる「Mirai Meeting」の展示を行いました。参加者が未来の市民になって、社会課題や都市のあり方を主体的に考えて選択をしていく。展示の企画当初から携わった日立製作所 研究開発グループが、この体験型展示に込めたビジョンを振り返り、これからの未来の社会に向けた協創を考えます。

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Society 5.0が描く未来の都市

2025年4月から184日間にわたって開催された2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)。日立は「フューチャーライフ万博・未来の都市」のプラチナパートナーとして「Society 5.0と未来の都市」をテーマにKDDIと共同展示を行いました。展示の企画検討は万博開催の3年ほど前からスタートし、研究開発グループはプロジェクト立上げ当初から企画の中心として参画しました。

「未来の都市」パビリオンでは、大阪・関西万博のメインテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」に基づき、博覧会協会と12者の企業・団体が協創し、経済発展と社会課題の解決を両立する人間を中心とした、Society 5.0がめざす未来の都市を表現しました。
革新的な技術によって私たちの生活が大きく変わろうとしているなか、人々が生き生きと暮らすことができる社会、すなわちSociety 5.0が実現された2035年の未来の社会を来場者に伝えるための展示をデザインすることが研究開発グループに期待された大きな役割です。単に技術や事業のケイパビリティに依拠するだけでは、豊かで実現可能な未来社会のビジョンを描くことは困難であり、社会課題を解決するソリューション創生の視点が不可欠です。魅力的かつ実現可能な未来社会の姿を描き出すことで、日立としての社会的価値創出と技術や事業の方向性を明確にすることをめざしました。

研究開発グループではこれまで、Society 5.0の社会を具体的に考え未来の多様な姿を描くビジョンデザインの活動や、複数のステークホルダーとの協創による新たな社会的価値の創生や課題解決策を議論するための方法論NEXPERIENCEなど、デザイン領域での活動も推進してきました。こうしたケイパビリティを持つデザイナーや研究者を擁する強みを活かし、さらに展示の検討をとおして社会課題解決の道筋を仮想的に体験することで、今後のソリューション創生に必要な要素を日立としても考えていく貴重な機会としてプロジェクトを推進してきました。また、Society 5.0の社会をリードしていく若年層のデザイナーも多く参画しました。

日立・KDDI共同展示「Mirai Meeting」

日立とKDDIの共同展示は、「未来の都市」パビリオンの協賛12者それぞれが示すSociety 5.0が実現された未来の都市の全体像を伝える案内役に位置づけられます。そこでは、Society 1.0から5.0へと至る歴史に続くかたちで、Society 5.0がめざす、多様な人々のニーズやライフスタイルに合わせた価値を提供する人間中心の社会の姿を描きます。このような人間中心の社会を実現するためには、技術や制度が人間を中心に設計されているだけでなく、社会を構成する市民一人ひとりが主体的に社会の設計や運営の意思決定に関わる「市民参加型社会」であることも必要です。そこで、「未来は自分たちで変えられる」をテーマに、参加者一人ひとりが2035年の未来の都市を自分たちで変える「体験」をすることで、市民参加型の社会を自分ごととしてイメージしてもらうことを狙いとしました。

「Mirai Meeting」とネーミングした体験型の展示は、「Mirai Theater」と「Mirai Arcade」の2つの展示で構成されます。
Mirai Theaterは、120名の参加者とともに2035年の未来を変える体験型の展示です。効率化の果てにどこかディストピアのようにも見える2035年の未来を、自らの選択によってどう変えられるのか、「食と健康」、「仕事選び」といった身近な題材をとおして参加者の皆さまに考えてもらいました。高さ6 m、幅15 mの大型スクリーンによる未来世界の実寸大での表現、2035年の未来からのナビゲータを演じるMC(Milli)との掛け合いによるストーリーへの没入、自身のスマートフォンからの投票で市民参加を疑似的に体験できます。

Mirai Arcadeは、3人1組で2035年の未来を変えるアーケードゲームをイメージした体験型展示です。参加者は、さまざまな社会課題が生じている2035年の未来にCyber Physical System(CPS)で支えられたソリューションをディスプレイにタッチしながら導入し、いきいきとした明るい未来に変えていきます。体を大きく動かして大画面のディスプレイを操作することで、楽しみながら2035年の社会課題を解決するソリューションを学べます。

画像: (左)Mirai Theater、(右)Mirai Arcade

(左)Mirai Theater、(右)Mirai Arcade

研究開発グループが貢献したターニングポイント

Mirai Meetingの展示を企画する上では、研究開発グループがこれまで培ってきたデザイン手法や幅広い研究領域の知見で企画を推進しました。

展示企画の出発段階においてどこをスタート地点とするか、まずは未来の都市の全体構想を整理しました。この構想では、日立のビジョンでもあるプラネタリーバウンダリーとウェルビーイングを両立する社会という観点から、「持続可能な社会の心地よい暮らしを実現する、新たな価値観や希求を描き出す」ことを展示企画の中心に据えました。そして、それを実現するために解決が必要な社会課題、必要となるリソース、ルール形成や実証のための場が検討ポイントである点を明らかにしつつ、これらの多様な観点を取り込むためにはマルチステークホルダーとの協創が必要になることが分かり、これが展示検討の出発点となりました。

そして、万博協会が掲げたテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に沿った展示企画を検討するにあたり、社会の将来ビジョンと企業のケイパビリティの両方をつなげることで社会課題を解決するソリューションや事業スコープのアイディアを議論し、万博における展示演出の検討を進めました。企画の中心である全体構想を下敷きにしながら、2025年以降の社会を取り巻く状況を想定し、展示演出として都市生活の未来を描くための事業スコープを絞り込んでいきました。最終的には8つの事業スコープに絞り込み、デザイナーと研究者が一体となってそれぞれの事業スコープに対して展示演出を議論していきました。研究開発に取り組む研究者が、技術や事業の観点から日立の企業ケイパビリティを幅広く押さえつつ、デザイナーがそれらの情報を用いて人がどのような生活を築いていくのかを検討する。また、デザイナーの描く社会ビジョンにどの技術が使えるかを研究者が考える。このような社会ビジョンと企業ケイパビリティの間を、デザイナーと研究者の双方向の視点で検討していきました。そして、8つの事業スコープごとの展示演出のアイディアを統合し、可視化したものを「Society 5.0ブループリント」として作成して展示演出の全体感を浮かび上がらせました。

画像: 社会ビジョンと企業ケイパビリティに基づく展示演出の検討

社会ビジョンと企業ケイパビリティに基づく展示演出の検討

画像: 8つの事業スコープの展示演出案をまとめたSociety 5.0ブループリント(2022年10月作成)

8つの事業スコープの展示演出案をまとめたSociety 5.0ブループリント(2022年10月作成)

このように絞り込まれた事業スコープの中で展示を議論を進めていくと、企業のケイパビリティを前提としたボトムアップのアイディアに閉じてしまうのではないかという課題が出てきました。これに対しては、一人ひとりに合わせて食や学び、働き方を自身がデザインする先進的なライフスタイルの研究を活用し、生活者視点での未来シナリオの策定に取り組みました。そこから都市中央から郊外にかけた幅広い領域の各所における生活シーンをイラストレーションで可視化していきました。これにより、企業ケイパビリティとの関係性を保ちながらも生活者視点で都市全体あるいは生活シーン全体を包括的に押さえた未来社会のビジョンが作成されていきました。

画像: 2030の都市生活とそれを支える社会インフラの姿(2023年06月初版作成)

2030の都市生活とそれを支える社会インフラの姿(2023年06月初版作成)

画像: 2035年の未来社会の生活シーンをイラストにて可視化(2023年08月作成)

2035年の未来社会の生活シーンをイラストにて可視化(2023年08月作成)

画像: 未来社会の都市から郊外の俯瞰図(2023年08月作成)

未来社会の都市から郊外の俯瞰図(2023年08月作成)

ビジョンを具現化した後は、それをどう万博の参加者に伝えるか、単にビジョンのイラストを会場に並べるだけでは、「市民参加型の未来社会」を伝えることはできません。どのようにして来場者に「市民参加型の未来社会」を自分ごと化してもらうのかという課題がありました。そこで、参加者の没入感を高めるために、大画面スクリーンを備えたシアターで等身大の未来社会の映像を投影する演出を採用しました。また、未来社会の設計、運営への参加感を出すために、これまで研究開発グループで推進してきた、ビジョンデザインと呼ばれる未来を描く活動を活用しました。ビジョンデザインは特定の技術やソリューションを描くものではなく、議論のたたき台としての将来像を示し、多くの人が将来の社会システムに関する考えを述べたくなるような問いを示すものです。将来からのバックキャストと現状の延長線(フォアキャスト)との間に生じるギャップを明らかにし、乗り越え、望ましい未来へのトランジションのプロセス、それをMirai Theaterで未来シナリオを提示する際のストーリーのフレームワークとして活用しました。市民の介入がない場合の未来の姿とその課題を提示した後に、トランジションの候補として望ましい未来につながる新たな未来シナリオを提示し、来場者が自身のスマートフォンで未来シナリオを選択することで、「未来は自分たちで変えられる」体験をして頂きました。

画像: Mirai Theater(ダイアログ)展示コンテンツの構成要素(2024年04月作成)

Mirai Theater(ダイアログ)展示コンテンツの構成要素(2024年04月作成)

リアルな会場での展示に加えて、KDDIが会期中に提供した「バーチャル未来の都市」に日立も協賛をし、万博会場に来場できない方々にも、より自由な視点から未来の都市のあり方を提示しました。バーチャル未来の都市は、メタバース空間上にSociety 5.0がめざす人間中心の都市空間を構築し、アバターを介して社会課題を解決した未来の姿や未来を支える技術に触れてもらうなど、バーチャルならではの独自体験ができるコンテンツです。現実の都市をそのままコピーして未来の都市空間を構築するのではなく、現実の枠を超えた自由な発想で協賛者それぞれが独自の視点から新たに未来の都市を描きました。研究開発グループは、高齢化などにより社会インフラを支える専門的な人財が不足していく社会課題に対して、地域住民など「みんなで支える社会インフラ」をテーマに、地方の鉄道インフラの保守を題材としたコンテンツを制作しました。駅舎や線路の中で保守が必要な箇所を見つけ出しながら、インフラ保守の分野での市民参加の可能性を考えてもらうゲームストーリーにすることで新しい未来のあり方を提示しました。

画像: バーチャル未来の都市の日立監修エリアでの鉄道保守支援のバーチャル体験

バーチャル未来の都市の日立監修エリアでの鉄道保守支援のバーチャル体験

Mirai Theaterやバーチャル未来の都市で示された未来シナリオとそこで提示される新たなサービスは、今後さまざまなステークホルダーとの協創により実現をめざしていくものです。日立としてより多くの参加者に未来の社会についてこの体験をきっかけに議論を深めてもらうために、未来シナリオとサービスを、「パターン・ランゲージ」の形式でまとめました。「パターン・ランゲージ」とは1970年代に建築分野で提唱された、街や建築の特徴を記述する手法であり、それを未来社会のビジョン、サービスの記述に適用しています。未来シナリオあるいはサービスをそれぞれ1つのカード形式にまとめ、14個のパターンを「みんなで未来の都市をつくる手がかり」という冊子としてまとめました※。万博の展示企画をとおして生まれた未来社会のビジョンを活用して作成したこの未来の都市をつくる手がかりは、私たちが一連のコンテンツで参加者に提示した新しいサービスを具体的に実現するための協創ネットワークを広げていくものと期待しています。
みんなで未来の都市をつくる手がかり(PDFファイル)

画像: 「みんなで未来の都市をつくる手がかり」のカード(2024年作成)

「みんなで未来の都市をつくる手がかり」のカード(2024年作成)

万博活動の振り返りと研究開発活動へのフィードバック

研究開発グループでは、大阪・関西万博の展示検討から会期中まで一連の取り組みをとおしてSociety 5.0が実現された未来の都市の姿を描き出しました。社会の将来ビジョンと企業ケイパビリティに基づく展示演出案の検討に始まり、これまでの研究開発グループで推進してきたデザインと研究それぞれの領域での活動をとおして、未来の市民参加型社会を万博会場での展示やバーチャルアプリなどさまざまな形で制作しました。万博会期中は、これらの展示をとおして、市民参加によりみんなで支える社会インフラのコンセプトを「未来の都市」パビリオンの来場者や協賛者と共有してきました。
今回の活動で得られたSociety 5.0の社会に向けたさまざまなアイデアやビジョンは、これから新たな社会インフラ保守事業の協創につなげています。大阪・関西万博の会期後も終わることなく、引き続き2035年の未来の市民参加型社会の姿と、それを支えるAI、デジタルのプラットフォームを多くのパートナーとともに協創していきます。

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