2020年、日立製作所はプロダクトからサービスやソリューション開発に至るまで、外部(社外)からはその活動が見えにくい日立のデザイン活動を、フィロソフィー「Linking Society」としてまとめました。コロナ禍でさまざまな分断があるなか、このことばに込められた「しなやかにつなぐことで世の中が変わっていく」という意識を新たに“日立デザイン”に取り組んでいます。

それと時を同じくして、デザイナーが所属する研究開発グループ 社会イノベーション協創センタでは、デザイナーが自ら日立デザインを外部に伝える活動をはじめています。

「私のデザイン、すごいんです」って、自分で言ってみる

丸山:助口さんは、家電のプロダクトデザインを担当後、2016年から3年間はイギリスのHitachi Europe R&Dデザイン部門に赴任。現在は東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 リーダ主任デザイナーを担当されています。

イギリスでは鉄道のデザインに取り組む中で、サービスの領域にも関わりながらも、プロダクトデザインにぶれずに向き合っていたと思います。プロダクトデザインに携わるインハウスデザイナーとして、いま、誰に何を伝えようとしているのか、そのあたりのことを聞かせてください。

助口:実は以前から、社外に向けての発信は考えていました。社内向けの研究発表会や、新製品開発の進捗説明会では、デザインの背景や工夫した点などを説明します。時間をかけて準備して、緊張しながら発表する。とても重要な場ではあるのですが、見方を変えれば、社内向けの取り組みでしかありません。このパワーを使えば、対外的にも良い発信ができるはずだという思いがありました。

モノや情報があふれいている今の世の中では、モノをひとつ買うにしても、開発背景やつくり手の思いを伝えることで、ユーザーはより納得した買い物ができるだろうし、買った後にもモノに愛着がわくと思うんです。

画像: 助口聡(すけぐち・さとし)株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 リーダ主任デザイナー

助口聡(すけぐち・さとし)株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 リーダ主任デザイナー

ただ、自分が担当したデザインを「すごくいいデザインなんです」と発信してもよいものか、という迷いがありました。その意識が変わるきっかけが、赴任先のイギリスで目の当たりにしたパーソナルブランディングです。イギリスで、デザイナーたちが「これでイギリスにイノベーションをもたらします」と、自分たちがやっていることを、堂々と前向きに発信するのを目の当たりにして、私も素直にこういうことをやればいいのかなと気づいたんです。

それからは、イギリスの展示会でコミュニケーションロボット「EMIEW」と一緒にステージに立ったりと、少しずつ対外的な発信にトライしました。プロジェクトの立ち上げに苦労した際には、オフィスの食堂にVR(バーチャル・リアリティ)システムのセットを一式持ち込み、勝手に社員向けの体験会も開催しました。それを見ていた営業担当者から顧客先へのデモにつながり、さらにはイタリアで開催されたHitachi Social Innovation Forumという大型イベントへの出展にまでつながりました。1つの発信が、興味を持ってくれる人、共感してくれる人、仲間になってくれる人にまでつながっていくのを実感したのです。

プロダクトデザイン自体は、話題性のある新しい活動ではありません。それゆえに、他者が発信してくれるのを待っていても何も起こらない、自分で発信するきっかけをつくらなくてはいけないことを体験できたことは大きかったですね。

丸山:ただ褒められたのではなく、共感を得てつながっていくのは大切ですね。SNSの「いいね」「シェア」と同じで、その人が満足してくれただけではなく、「この感動をみんなに伝えたい」と言ってもらえると、自分たちの活動が評価されたと感じます。新たな人との出会いがあるのも、一緒に成功したいと思っているからこそだといえます。

助口:私の場合、一番は褒められたいのですが(笑)、次から次に広がっていく実感、共感の桁が一気に増えるという感じでした。それが可能な時代なんだなと思いましたね。

魅力を伝えるための試行錯誤が、追加取材につながった

助口:家電では2019年に事業部門がHitachi meets design PROJECTをスタートしました。「日立は安心、安全というブランドはあるが、必ずしもデザインで高い評価を得ていない、これからはデザインによる価値をだしていきたい」ということで宣言されたメッセージです。

私たち研究開発グループのプロダクトデザイン部も事業部門と連動して、デザイン改革に取り組んできました。自分たちのデザイン品質を上げるのはもちろんですが、こうした理念に共鳴する外部デザイナー、コラボレータを巻き込んで、デザインの品質を上げていく活動もスタートしました。プロダクトデザイナーの深澤直人氏とのコラボレーションで空気清浄機を開発し、「グッドデザイン・ベスト100」に選出されました。

一方で、今まで評価されてこなかった原因を振り返ると、きちんと社外に伝える努力が足りなかったのではという考えに至り、自ら発信してみようと思うきっかけにもなったのです。

第一弾として、2019年、ドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」の新製品発表会を研究開発グループの拠点、「協創の森」で実施し、担当デザイナーが登壇して製品のプレゼンをしました。第二弾はコードレス スティッククリーナー「パワーブーストサイクロン」の新製品説明会を工場で行いました。ここでも担当デザイナーが製品デザインをプレゼンをし、さらに、製造ラインを記者に公開し、自由に写真撮影してもらう試みも実施しました。実は第一弾の協創の森での記者発表会では、研究所まで来てもらったのに、記者の皆さんに構内を自由に撮影してもらえるような準備を整えられなかったことで、魅力を伝えきれなかったという反省がありました。工場での新製品説明会では対応を改善した甲斐あって、何よりも「日立のデザイン、面白そう」と興味をもってもらい、追加の取材申し込みもありました。

この反響がきっかけとなり、第三弾として、担当デザイナーが自ら製品を説明する動画配信を企画し、2020年より配信を開始しました。自分がイギリスで目の当たりにした、デザイナーによるパーソナルブランディング活動を、日本でもようやくスタートさせることができた。まだまだ色々やっていきたいです。

画像: セカンド冷蔵庫 R-K11Rのデザイン - 日立 youtu.be

セカンド冷蔵庫 R-K11Rのデザイン - 日立

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画像: タテ型洗濯乾燥機 BW-DX100Fのデザイン - 日立 youtu.be

タテ型洗濯乾燥機 BW-DX100Fのデザイン - 日立

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丸山:自分たちがやっていることを、社内の人には一生懸命説明してきたのに、エンドユーザーには説明してこなかったんですよね。社外に向けて発信するからには、つくり手の物語をしっかり伝えていってほしいと思います。

助口:これからも発信を続けて、直接社外からの評価を受け取ることも、ポジティブな成長に活かしていきたいと考えています。

議論をなげかけて、答えを得て、初めてデザインが完成する

丸山:改めて、発信力が大きく影響する世の中になってきたと感じますよね。あるときから、“言論(SNSを中心としたネットに掲載された文章や動画から情報を得る)の世界”が“現実(物理的に人やモノと接して情報を得る)の世界”よりも影響力を増してしまったら、日立デザインや日立そのものも、しっかりと伝えていかないと、第三者のコメントによって誤解を与えてしまったり、価値を過小評価されてしまったりする。そんな危惧をデザイナーが抱き始めたのかもしれません。

柴田:そういう危機感はあるかもしれませんね。言論の世界でみんながこれほどつながる以前は、日立デザインは新しく、インパクトをもって伝えられていたと思います。世の中がつながり、比べる対象が増えたことで、相対的に日立デザインの新しさが小さくみえるのかもしれません。実際には、そんなことはないと信じています。

丸山:家電で考えると、今までは売り場というわかりやすい場所で、存在感を発揮すれば良かったんです。しかし、言論の世界では、日立デザインが施された製品に関しての「情報量」がすべてを左右します。発信が少なければ、自ずと情報量も減ってしまい、存在感を示すことができないということになるのではないでしょうか。

助口:そうですね。「社外から認知されないのではないか」という危機感を持ったと、柴田さんが話されていましたが、プロダクトデザインのチームでもみんながなんとなく自信を無くしていると感じる時期がありました。自分たちのやっていることを丁寧に発信して、その評価を受け取る方が前向きに取り組めるのではないと考えました。

丸山:社外に発信することで、日立デザインへの誇りや、デザイナーとしてのアイデンティティを確認しているのかもしれませんね。だからこそ『Inside Hitachi Design』や製品プロモーション動画が、デザイナーの個人名をだして発信することにはとても意義があると感じます。

柴田:デザインというのは、「問い」と「答え」のセットだと思います。広く議論をなげかけて、答えを得て、初めてデザインは完成する。だからこそ、これからも発信をしていきたいと思っています。

丸山:コロナ禍で大きく世の中が変わるなかでのデザイン活動を、今後もより多くの方に発信し、その価値を再認識していただく。そういう場としての日立デザインも皆さんに知っていただきたいですね。

日立製作所 研究開発グループ
社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ
主管デザイン長
丸山幸伸

『イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材』(トム ケリー, ジョナサン リットマン著、早川書房)は、イノベーションを生む能力を10人のキャラクターになぞらえ、そのスキルと行動様式が、軽妙な描写で、わかりやすく描かれており、読み進むほどにワクワクする本です。デザインシンキングという言葉の意味や価値が広く一般にも伝わるようになったのは、この書籍の著者であるトム ケリー氏の功績が大きいと言えます。イノベーションに取り組むすべての人に、「自分にもできるかもしれない」という勇気をくれる一冊ではないかと思います。

株式会社日立製作所 研究開発グループ
東京社会イノベーション協創センタ
ビジョンデザインプロジェクト
主任デザイナー
柴田吉隆

職場の同僚から「受動態と能動態の間の中動態というものがある」と教えてもらい、興味を持って読んでみたのが『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院)です。「する」か「される」かが問題となる現代の言語に対して、中動態があった時代の言語では、本人の意識が行為の外にあるか内にあるかが問題になっていたそうです。Society 5.0は「想像社会」ともいわれるけれど、中動態が強かった世界では、他人の行為の背景に思いを馳せることが当たり前のようにひとりひとりの考えの中に織り込まれていたのかもしれないと妄想が広がります。

日立製作所 研究開発グループ
東京社会イノベーション協創センタ
プロダクトデザイン部
リーダ主任デザイナー
助口聡

『デザイン発見』(六耀社)は、1999年に私が食品容器の業界でキャリアをスタートした時に出会った、デザイナー奥村昭夫さんの作品集です。後日、運良くご本人と直接会話する機会に恵れ、図々しくも当時の仕事の悩みなどを相談させていただきました。その中で、「仕事は自分で楽しくするもので、如何に仕事を楽しくするかがクリエイティビティの発揮しどころ。自分の仕事を楽しくできない人は、良いアウトプットが出せない」とのアドバイスを頂きました。20年以上経った今でも、仕事に詰った時は意識するようにしています。

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