2026年5月20日、ザ・プリンス パークタワー東京にて、日立製作所主催の「Hitachi Physical AI Day」が開催されました。
研究開発グループは、複数の講演や展示、デモンストレーションを通じて、フィジカルAIを活用したロボティクスの最新動向や、社会インフラへの実装を支える知能基盤モデル「IWIM(Integrated World Infrastructure Model)」、AIエージェント「Frontline Coordinator - Naivy」などを紹介しました。
本記事では、フィジカルAI活用におけるさまざまな課題に対する解決策を、具体事例も交えながらご紹介します。

会場には多くの来場者が集まり、フィジカルAIの最新動向に耳を傾けた
「現場で使えるフィジカルAI」の実現に向けて
ブレイクアウトセッション「複雑作業の自動化を実現する、フィジカルAIの頭脳を搭載したロボティクスの最新動向」では、研究開発グループ モビリティ&オートメーションイノベーションセンタ ロボティクス研究部 部長の水落麻里子と、同研究部 リーダ主任研究員の山田弘幸が登壇。認識AI、生成AI、エージェンティックAIに続く潮流として注目されるフィジカルAIをテーマに、AIが現実世界を理解し、自律的に行動する時代の到来と、それに向けた日立の取り組みを紹介しました。
深刻な労働力不足により人に代わるロボットの活用に期待が寄せられる一方で、ロボットの生産性をいかに向上させていくかは大きな課題です。水落は、解決のためには作業速度と精度を両立しながら、消費電力や運用コストも抑える必要があると説明しました。
これに対し日立は、深層予測学習ベースのコンパクトAIモデルによる低消費電力化と、タスク特化型の継続学習による熟練度の向上を組み合わせた独自のアプローチを進めています。
パラメータ数と計算量を抑えるコンパクトなAIモデルを採用することで、複数の動作候補から最適な動作を選択し、消費電力を抑えつつ高い精度を実現する技術を開発しました。また、人が反復練習によって技能を高めるように、ロボット自身も動作を繰り返し学習し、継続的に最適な動作へ進化し続けていくことが可能なため、自律的な熟練度の向上も期待できます。山田は、この2つの技術を掛け合わせることで、AIの消費エネルギーあたりの生産性は、20倍~100倍に向上するとの考えを示しました。
セッションでは他にも、ケーブルの配線作業や鉄道車両の外観検査などの具体的な事例を紹介し、フィジカルAIによる複雑作業の自動化の可能性を示しました。今後はこうした技術をさまざまな産業へ展開し、システム全体の最適化を通じて、社会インフラの革新につなげていく展望が語られました。

日立のフィジカルAIに高い関心を寄せる来場者で埋まったセッション会場
社会インフラへのフィジカルAI導入を実現する「IWIM」
ブレイクアウトセッション「IWIM:フィジカルAI時代の社会インフラ知能基盤モデル」では、研究開発グループ 産業オートメーション研究部 部長の小倉孝裕が登壇し、日立の社会インフラ知能基盤モデル「IWIM(Integrated World Infrastructure Model)」を紹介しました。
AIの未来が広がる一方で、社会インフラ領域ではハルシネーションや判断根拠の不透明さが大規模停電、鉄道車両事故、工場での大量の不良発生など、大きな社会的影響を及ぼす可能性があり、重要な課題となっています。そこで開発を進めているのがIWIM(アイウィム)です。
社会インフラにフィジカルAIを適用するうえでの課題と、それに対する日立の取り組みについて説明し、今後の展望を述べました。

日立が110年以上にわたり社会インフラを支えることで蓄積してきた知識をもとに、AI活用を前提とした安全・高信頼・高効率な社会インフラシステムの構築・運用に向けてモデル化したものが、IWIMです。
IWIMは、物理モデルやデジタルツインシミュレータを組み合わせて物理現象を統合した世界基盤モデルと、社会インフラの製品知識や運用保守に関する熟練者のノウハウ、マニュアルなどのOTナレッジを統合した大規模言語モデルを中核に構成されています。さらに、これらのモデルを対象や条件に応じて最適に自動化(オーケストレーション)し、施策の影響評価や、「望ましくない未来」に対するアラートや対応指示をエージェンティックAIが担い、フィジカルAIシステムに返します。また、エネルギーやモビリティなどの各ドメインに最適化されたモデルを、さらにエージェンティックAIがオーケストレーションすることで、データセンターとエネルギー領域にまたがるワットビット構想や、エネルギーとモビリティ領域にまたがる広域インフラ管制など、複数領域にまたがる社会課題への対応も期待されています。
セッション後半では、エネルギー分野において系統接続計画の立案時間を80%削減するなどのIWIMの具体的な活用例や果たす役割についても紹介されました。あわせて今後の展望として、フィジカルAIを活用し、社会インフラのさらなる安心・高信頼・高効率化を実現するプロダクトやOT・ITシステムの開発と運用を、IWIMによって加速していく考えを語りました。
人・AI・ロボットをつなぐAIエージェント「Frontline Coordinator -Naivy」
展示エリアでは、次世代AIエージェント「Naivy(ナイヴィー)」を紹介しました。
Naivyは、人・AI・ロボットを連携させ、現場で必要な情報を適切なタイミングで提供するAIエージェントです。産業現場では、起きている事象と経験による知識を結び付けながら判断する必要がありますが、熟練者不足による知識継承が課題となっています。そこで、Naivyは現場で蓄積された知識やデータを活用したタスク実行支援とともに、作業後の振り返りを通して、はたらく人の知識定着の支援も行っています。AIが人と置き換わるのではなく、Naivyとの会話を通じて、人の成長や熟練化を支援する存在であることが特徴です。
Naivyはすでに現場への適用を始めています。まずはお客さまのご要望に応えながら、非熟練者がいかに早く熟練するか、AIが実行できるかといった観点での研究開発をさらに進めていきます。

会話を通じて知識を深める作業者とNaivyのデモンストレーション
フィジカルAIの社会実装に向けて
展示会場ではこのほかにも、フィジカルAIの社会実装を支えるさまざまな技術が展示されました。本記事の冒頭で紹介したセッションに関連する、フィジカルAIの頭脳を搭載したロボティクスを展示。形状が変わりやすく、取り扱いが難しいケーブルを把持し、クリップやコネクタに挿入する作業のデモンストレーションが実施され、継続学習によって作業精度と速度を高める技術が紹介されました。

ケーブル配線作業を行うロボットアームのデモンストレーション
また、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」の適用によるデータセンター全体の運用を高度化するソリューションコンセプトを紹介しました。データセンター内には、GPUなどのIT機器だけでなく、冷却設備や電源設備など多様な設備が存在します。本展示では、それらのデータを統合し、日立が持つOTの知見とAIを組み合わせることで、AIワークロード(AIの学習・推論などの処理負荷)を制御して発熱によるGPUの性能低下を抑制し、あわせて水冷システムの消費電力を低減することで、データセンターの生産性向上を図るアプローチを示しました。現在はデータ収集や最適化技術の開発を進めており、今後は運用を通じてユースケースを拡大し、さまざまなデータセンターへの展開をめざしていきます。

展示された説明資料
さらに、企業のAI活用状況を可視化する診断サービス「MA-ATRIX」も紹介しました。MA-ATRIXは、AI活用の成熟度を7つの評価軸と7段階のレベルで診断し、次に取るべきアクションやロードマップの策定など、段階的な業務変革を支援する評価指標です。AIやDXに関して日立がこれまで培ってきたさまざまなユースケースをもとに指標が設計されており、AI導入を始めたばかりの企業から、高度活用をめざす企業まで幅広く活用できます。現在は実際の導入事例を蓄積しながらサービスを展開しており、今後は診断データの分析を通じ、より効果的なAI活用の進め方や成功パターンを明らかにしていきます。AI導入に伴う手戻りや余計な試行錯誤を減らし、企業の変革を効率的に後押しする羅針盤として期待されています。

展示会場内のミニシアターでも紹介し、注目を集めた
イベント全体を通して、AIやロボットそのものの性能を競うのではなく、「現場で使えるAI」「社会実装できるAI」を追求する姿勢を示しました。フィジカルAIに求められる効率化、高性能化の問題やデータセンターの運用最適化、社会インフラの安全・高信頼な制御、企業のAI活用支援など、現場で直面する具体的な課題に対して、一つひとつ実践的なソリューションを提示しました。今後も研究開発グループのもつ技術力と現場で培った知見を結び付けながら、社会実装へと着実につなげ、産業やインフラ、暮らしに関わるさまざまな社会課題の解決に貢献していきます。





