理化学研究所・imecとの連携強化、クラウド公開、2030年1,000量子ビット実現への挑戦

2025年10月2日、日立製作所本社地区(丸の内)にて量子コンピュータ研究開発説明会を開催しました。当日は水野弘之技師長が、日立の戦略や今後の展望について報告しました。

量子コンピュータの社会的意義と日立の挑戦

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかる複雑な計算や、現代社会が直面する新たな課題の解決に向けて期待されている革新的な技術です。世界中の研究機関や企業が開発競争を繰り広げる中、日立製作所は理化学研究所(以下、理研)やベルギーのimecと連携し、シリコン量子コンピュータの実用化に向けた戦略的な取り組みを加速させています。本説明会では、日立の水野弘之技師長が、量子コンピュータ開発の現状と今後の展望、そして社会にもたらす価値について詳しく語りました。

画像: 量子コンピュータの社会的意義と日立の挑戦

世界の量子コンピュータ開発潮流

量子力学の誕生から100年を迎え、世界では量子コンピュータの基礎技術や応用分野に関するイベントが活発化しています。古典コンピュータは半導体技術の進化とともに、微細化や並列化によって性能向上を遂げてきましたが、量子コンピュータはまだ「本命」と呼べる方式が決まっていません。主な量子ビット方式には、シリコン半導体型、中性原子型、超伝導型があり、それぞれに集積性や安定性、スケーラビリティなどの特徴と課題があります。世界の主要プレイヤーがそれぞれの方式で技術開発を進めており、日本も理研や日立がグローバルな競争の中で存在感を高めています。

画像: 世界の量子コンピュータ開発潮流

日立の開発戦略――連携とオープン化

日立は、理研・imecとのMOU締結を通じて、シリコン量子コンピュータの実用化に向けた連携を強化しています。各国の研究拠点や専門人材を活用したグローバルな研究開発ネットワークを構築し、量子コンピュータの社会実装に向けて体制を強化しています。特に、シリコン半導体型は高い集積性とスケーラビリティを持ち、将来的な大規模化や産業応用に適していると考えられています。2027年度までにクラウド公開を実施し、研究者コミュニティのエコシステム拡大をめざします。世界的なオープン開発の潮流を踏まえ、量子コンピュータの実験環境を広く提供することで、技術革新を加速させる方針です。

画像: 日立の開発戦略――連携とオープン化

技術的な課題と突破口

量子コンピュータの実用化には、量子ビットの安定性向上と誤り訂正技術の確立が不可欠です。日立は、半導体技術者の豊富な知見を活かし、シリコン型量子ビットの長寿命化や効率的な誤り訂正符号の実装に取り組んでいます。例えば、量子ビットのノイズ耐性を高める新技術の開発により、従来比で100倍以上の寿命延伸を達成しています。さらに、多数の量子ビットを用いて論理量子ビットを構築する誤り訂正技術は、量子計算の信頼性を飛躍的に高める重要な要素です。基礎研究からシステム実装への転換を進めることで、社会に価値をもたらす量子コンピュータの実現をめざしています。

画像1: 技術的な課題と突破口
画像2: 技術的な課題と突破口

研究開発加速のための連携

日立は、理研・imecとの共同研究に加え、英国ケンブリッジラボでの基礎研究や、量子コンピュータのユースケース探索組織「Q-STAR」との連携も進めています。クラウド公開によるオープン開発は、研究者同士の知見を結集し、量子コンピュータの新しい使い方や応用分野の発掘につながります。こうした連携を通じて、基礎科学から産業応用まで幅広い分野でのイノベーション創出をめざしています。

実用化へのロードマップ

日立は、2027年までにクラウド公開、2028年に100量子ビット、2030年に1,000量子ビットの試作機の開発をめざしています。将来的には、量子誤り訂正技術を組み込んだ実用的な量子コンピュータを社会に提供し、産業や科学技術の発展に貢献することを目標としています。応用分野としては、材料開発、創薬、気象シミュレーションなど、社会的インパクトの大きい領域が期待されています。量子コンピュータの進化は、持続可能な社会の実現や新産業の創出にもつながると考えられています。

画像: 実用化へのロードマップ

未来を切り拓く挑戦

水野技師長は「今が踏ん張りどころ。シリコン量子コンピュータの本格的な社会実装に向けて、国内外の研究者や企業と連携し、未来を切り拓く挑戦を続けていきたい」と語ります。日立は、シリコン量子コンピュータの実用化を通じて、持続可能な社会と新たな産業創出に貢献していきます。今後も、技術革新と社会的価値の両立をめざし、グローバルな視点で研究開発を推進していきます。

(※本記事は2025年10月2日開催の説明会内容および関連資料・図版をもとに構成しています)

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