神戸大学の大規模医療・介護データを用いた高齢者の要介護リスク予測の高精度化と新たなリスク要因の発見に、日立のAI技術が貢献
日立は、高齢者の要介護リスクの早期発見と介護予防の高度化に向けて、国立大学法人神戸大学(以下、神戸大学)との共同研究を通じて、新たな説明可能なAI*1技術および根拠データ管理技術を開発し、神戸大学に提供しました。神戸大学では、神戸市民38万人規模の医療・介護情報を用いて、AIモデルの精度が有効かどうかについて国際的な目安であるAUC=0.800*2を超える高精度な要介護リスク予測モデル*3を構築しています。従来のAI技術では、医療・介護データのように項目数が非常に多い(高次元)場合、十分な精度でリスクを予測することが難しいという課題がありました。今回開発した技術は、こうした膨大なデータをそのまま活用しながら、より高い精度で要介護リスクを予測できる点が特長です。また、AIがどの情報をもとにリスクを判断したのか、リスク予測への影響度を根拠として明確に示すことができるため、従来は見逃されていた新たなリスク要因の発見にもつながります。今回、開発したAIがリスク予測に効果的な要因を抽出し、医療・介護データの中から重要な項目を絞り込む(次元圧縮)ことで、従来のAI技術でも十分な精度でリスク予測が可能となりました。神戸大学での解析の結果、消化器疾患や視覚・聴覚障害、低LDLコレステロール値なども新たなリスク要因であることが判明し、さらに、頭痛や骨粗鬆症、腰痛、便秘は適切な治療でリスク低減につながることも確認されました。これらの成果を活用することで、自治体は科学的根拠に基づく介護予防事業の対象者選定や個別予防策の立案が可能となり、保健師や介護スタッフなどの人的リソースの最適化と社会保障費の抑制への貢献が期待されます。日立は、今後もAI技術のさらなる高度化を通じて、人々の健康寿命の延伸と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

図1 個人ごとの要介護リスク予測と科学的根拠に基づく介護予防策支援
*1 説明可能なAI: AIが導き出した答えについて「なぜその答えを出したのか」を説明できる特徴をもつAI (B3 Analytics)
https://www.hitachi.co.jp/products/it/industry/solution/hdsf_pharma/b3analytics.html
*2 Hosmer D, Lemeshow S. Applied Logistic Regression, 2nd ed. Wiley-Interscience, 2000; 156–164
https://ftp.idu.ac.id/wp-content/uploads/ebook/ip/REGRESI%20LOGISTIK/epdf.pub_applied-logistic-regression-wiley-series-in-probab.pdf
*3 Anezaki H, Hiroe M, Kawai M, Fujiwara A, Nakata Y, Miyata Y, Masuda H, Matsumoto A, Okata S, Izumi H, Naono K, Kurebayashi Y.
A Machine Learning Approach for Predicting Long-Term Care Needs and Identifying Risk Factors Among Older Adults in Japan.
Kobe Journal of Medical Sciences 2025; 71(3): E124-E143
https://www.med.kobe-u.ac.jp/journal/contents/71/E124.pdf
背景および課題
日本は世界有数の超高齢社会を迎え、要介護者の増加や社会保障費の膨張が大きな社会課題となっています。こうした状況の中、神戸市では、科学的根拠に基づく保健事業の推進をめざし、医療・介護・健診などのデータを個人ごとに統合したヘルスケアデータ連携システムを構築しています。2022年1月には、神戸大学と日立が共同で、神戸市民38万人の健康・医療ビッグデータを対象とした、説明可能なAI技術を活用した要介護リスク予測の研究を開始*4し、日立はAI技術の開発・提供を通じて、モデルの根拠明確化やリスク要因提示を支援してきました。
*4 神戸大学と日立が説明可能なAI技術を用いて神戸市民38万人の要介護リスク予測の共同研究を開始:2022年1月21日:日立
課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長
今回、日立はこれまでの知見をもとに、高精度な説明可能なAI技術をさらに進化させ、従来、知られていなかった因子まで特定できる新たな仕組みを実現しました。主な特長は以下の通りです。
1. 高精度かつ多面的なリスク要因の特定
日立が開発した説明可能なAI技術は、医療・介護・健診など多分野にわたる大規模データを解析し、要介護リスクに関連する多様な要因を高精度に抽出します。本技術は、Deep Learning技術をベースとしており、単純には解けない問題に対しても精度良く予測することが可能です。また、次元数*5が「数千~数十万」といった大規模な医療・介護データでも精度を保った解析が可能であるため、十分に知られていなかった要介護リスクに寄与する要因を、細かく探索することができます。これにより、介護予防事業の対象者選定や個別予防策の立案に新たな科学的根拠を提供します。
2. 透明性と信頼性を担保する根拠提示
本技術は、AIにより判明した予測要因を生成した根拠データを提示することで、自治体や医療現場での意思決定の透明性と信頼性を高めます。要介護リスク予測モデルの構築時に、各データ処理の入出力データを関連づけて管理します。関連づけられたデータを辿ることにより、大規模なデータによるAI予測結果においても、根拠となるデータまで遡ることができ、明確に根拠として提示する事が可能です。これにより、行政保健師などの医療専門職の方が科学的根拠に基づく介護予防策を立案しやすくなり、介護予防事業の質向上と効率化に貢献します。
*5 次元数: 機械学習において、学習の指標となる特徴量の数のこと。
確認された効果
本技術の解析により、従来注目されていた認知症や脳卒中、骨折・転倒に加え、消化器疾患や視覚・聴覚障害、低LDLコレステロール値なども要介護リスクを高める新たな要因であることが明らかになりました。また、頭痛や骨粗鬆症、腰痛、便秘は、適切な治療を受けている場合にはリスク低減につながることも確認されています。これらの知見は、介護予防事業の対象者選定や早期介入の新たな指標として活用が期待されます。
今後の展望
今後は、本技術を高度化し医療・介護・生活習慣などの多様なデータをさらに統合することで、より包括的かつ精密な予測モデルの構築への支援を進めます。まずは、研究により得られた知見を神戸市民へ還元することを進め、その後他自治体への展開をめざします。技術のさらなる高度化や地域特性への適応を進め、持続可能な介護体制の構築と健康寿命延伸、そして人々のウェルビーイング向上に貢献します。なお、本技術は、日立のAI倫理原則に則り、安全性・プライバシー保護・公平性などに十分配慮して運用します*6。
本成果は2025年12月12日(金)にKobe Journal of Medical Sciencesに掲載されました。
*6 日立のAI倫理原則に基づき、AIの出力は必ず専門職が確認し、最終判断を行います。また、匿名化や仮名加工による再識別リスクへの対策、厳重なセキュリティによる外部持ち出し防止、公平性確保のための属性削除や監査も徹底しています。さらに、AIによる判断過程は利用者に提示し、展開先ごとに法令や倫理審査への適合を確認するなど、AI倫理上のリスク対策を多面的に実施しています。
照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ

