2025年5月20日、日立製作所 研究開発グループの協創の森にて、著書『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』で話題の大塚あみさんをお迎えし、講演会を開催しました。
大学の授業中にChatGPTと出会い、「宿題をサボるために」始めたプログラミングから、学会発表、100日連続アプリ制作、さらには起業を果たした大塚あみさん。数々の経験を経て気づいた、技術がいかに進化しようとも変わらない「本当に大切なこと」とは?
当日は、大塚さんによる講演に加え、研究者たちとのパネルディスカッションも実施し、日頃の研究現場における生成AIの活用に関して率直な意見を交わしました。
(後編):パネルディスカッション「生成AIの活用法や学びの楽しさについて」

「450人の前で話すのは少し緊張しますね」と大塚さん
生成AIとの出会いと「#100日チャレンジ」
私がプログラミングに本格的に取り組み始めたのは、大学4年生だった2023年4月、授業で初めてChatGPTに触れたのがきっかけでした。「これを使えば宿題をサボれるぞ」と思ってあれこれやっているうちに、ある日教授にバレまして(笑)、それがきっかけで同年6月の電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会で発表を行いました。その後、毎日1本ずつ、ゲームアプリや簡単なツールを作成して作品をX(旧Twitter)に投稿する「#100日チャレンジ」という企画をスタートしました。これが思いのほか反響を呼び、いろいろな取材やご縁をいただくことになりました。
100日チャレンジを始めるときには、1本作るのに2~3時間あれば終わるだろうと思っていたのですが、結局は毎日10時間ずつ、計100日間、お正月もクリスマスもずっと作っていました。そこまで時間をかけていると、さすがに私自身が成長します(笑)。最終的にはかなり複雑なゲームを短時間で構築できるようになりました。最初はアニメーションもどうやったらいいか分からず紙芝居的に動かしていたオセロゲームも、線形代数を使って、数学的に回転しているように見える処理ができるようになりました。もちろん大学で線形代数を学んだことなんてすっかり忘れていたので、一生懸命参考書を読み返しながら頑張って作りました。

学会での発表、ソフトウェアエンジニアとしての就職、起業と目まぐるしい日々を送る
必要なのは「学びの最適化」
生成AIはいま、OpenAI、Anthropic、Google(Gemini)などによるモデル競争が激化し、OSS AI(オープンソースAI)も急拡大するなど、激動の日々です。技術の進化が速すぎるために、「このツールを使えば大丈夫」「このモデルが主流」といった明確な勝者や標準が存在しません。一方で企業では、半年かけて開発した社内向けのチャットbotがすぐに旧モデル依存となって更新ができなくなったり、部門ごとにプロンプトやテンプレート、設定方針がバラバラの「社内GPT」が乱立してメンテナンスが不可能になっていたりと、技術に振り回されている状況です。1年かけて学んだとしても、すぐに使い物にならなくなっているということですね。
100日チャレンジでは、特定のツールを深く学ぶのではなく、学び方を最適化することを意識して100日間過ごしました。具体的には、小さなトライアンドエラーを繰り返して、たくさんの経験を積むことを重視しました。また、企画全体の目的をアルゴリズムや設計の学習に置き、Xですぐに公開することで、学習過程そのものを外部に向けた実績として蓄積していきました。

100日チャレンジを経て得た知見を惜しみなく語る大塚さん
プロンプトの精度が命
生成AIはプロンプトの精度が命です。指示文を作成する技術の重要性は当面続くでしょう。いま、プロンプト自体を生成AIに作らせるのが流行っているそうですが、生成AIは指示待ちする部下のようなものです。プロンプトを生成AIに作らせるというのは、部下に対する指示を自動化するようなもので、私の体験からすると、かなり難しいことなのではないかと思っています。
書店に行くと、「部下の育て方」的な本が平積みになっていますが、本を読んだからといってすぐにうまくなるわけではないのは、生成AIも同じです。とにかく一つひとつ、知識を蓄積していくことが大事だと思っています。そこで、100日チャレンジのときは、プロンプトを作成するときに、どんなプロンプトを書いたか、その趣旨や目的、次の計画などを詳細に記録していくことを重視しました。これが非常に役に立ちました。
昔だったら雇用主や管理職しか指示を出すことがなかったと思いますが、生成AIが相手だと、平社員であっても膨大な経験値を稼ぐことができます。さらに指示を何度も繰り返していくと、自分が何を求めているのかが明確になりますし、何がアウトソースできるのかを理解できるようになっていきます。指示文を作成する技術というのはそういうことです。仕事術はこれから一つひとつなくなっていくと思いますが、指示する技術の重要性だけは、絶対になくなることはないと思います。
今日からできる!生成AIと上手につきあうコツ
皆さんがいま会社の業務で生成AIを活用するとしたらどんなことができるでしょうか。
まずおすすめしたいのは、1日1回、生成AIに自分の業務を相談することです。そして、そのときのプロンプトや、そのプロンプトを作るに至った経緯を、チャット履歴とは別にまとめて整理しておくことをおすすめします。整理しておくと、明日の自分がそれを見て続きから始めることができます。この流れは学生時代に私がやったことと同じなんです。毎日宿題をさぼろうと生成AIに相談し、どういうふうにさぼっていくのかという定義を整理して、どう考えたかということも全部文章にまとめていきました。それを何日も繰り返し、2カ月もやっていると、60回作戦を修正することになるんです。60回も修正したら、当然悪いものにはなりません。
生成AIの使い方を上達させたいのであれば、基本的には何でもかんでも生成AIに相談するといいと思います。よく私のChatGPTの履歴を見たいという人がいますが、キャリアプランから何から全部入っていて個人情報の塊なので、絶対見せられません(笑)。
プロンプトを作るコツは、まず、1回で答えを求めようとしないことです。前提条件のメモを作り、書いてみて、プロンプトを動かす。出力されたものがおかしければ、絶対にプロンプトが間違っているので、プロンプトを修正しましょう。あとは正直になることです。生成AIに嘘をついてはいけません。生成AIに対して、いい人であるように見せる必要はありません。正直に説明しましょう。もう1つ重要なのは、生成AIは使う人の能力以上のことはできないということです。たとえばプログラムを書く時に、コードの量が増えていくにつれて生成AIはどんどんバグを生んでいきます。エンジニアはそこで、オブジェクト指向等の手法を使いますが、そうした設計的な発想を知らないと、生成AIに適-切な指示は出せません。
生成AIにうまく指示を出せないのは、あなた自身がその仕事を体系化できていないからです。体系化のための勉強の必要性は変わりません。勉強した上で、自分が知らない何かがあるということを想定しながら生成AIと対話していけば、いいプロンプトが生まれ、生成AIと一緒にいい仕事ができるようになっていくでしょう。
「AIに仕事が奪われない未来」はありません。AIを操り、一緒に仕事を奪いにいきましょう。
プロフィール

大塚 あみ
合同会社Hundreds代表
エンジニア/ 作家/ 研究者
2024年3月に大学を卒業、IT企業にソフトウェアエンジニアとして就職。2023年4月、ChatGPTに触れたことをきっかけにプログラミングを始める。授業中にChatGPTを使ってゲームアプリを内職で作った経験を、2023年6月の電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会にて発表。その発表が評価され、2024年1月の電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会における招待講演を依頼される。2023年10月28日から翌年2月4日まで、毎日プログラミング作品をXに投稿する「#100日チャレンジ」を実施。その成果を2024年1月に開催された電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会(招待講演)、および電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会、 2月にスペインで開催された国際学会Eurocast2024にて発表した。9月、国際学会CogInfoComにて審査員特別賞受賞。12月、合同会社Hundredsを設立。2025年1月、著書「#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった」を出版しベストセラーとなった。