人口減少地の地域経済にみる「経済エコシステム」のきざしの探索

日立製作所研究開発グループのデザインセンタでは、将来を洞察しながら 生活者の価値観変化のきざしを捉える活動 を2010年から継続している。本記事では、2040年をターゲットに人口減少が深刻化していく未来に向けて、私たちの日常的な消費を取り巻く価値観がどのように変化しうるのか、2023年度に検討した内容を公開する。

今回のプロジェクトでは未来洞察のための情報収集の一環として、地域のフィールドワーク調査を実施。今後、日本のあらゆる地域が直面し得る「深刻な人口減少」という事象に対して、既にその只中にありながら地域経済の持続に取り組む先進的な地域を訪問し、机上調査では得ることが難しい生活者の行動や事業者の意識を把握し、未来洞察の材料とした。
対象地域は、地域資源を生かしたエコシステムの構築などを手がけるシンク・アンド・ドゥタンクであるリ・パブリック社の協力を得て、鹿児島県北西部の阿久根エリアと熊本県の上天草エリアを選出。各エリアのキーとなる事業者や注目すべき施設をピックアップし、日立、リ・パブリック社のメンバー協働で、2023年8月に4日間にわたる現地調査を行なった。

画像1: 出典:国土地理院 地理院タイル

出典:国土地理院 地理院タイル

今回の調査にて、人口減少の進んだ地域における「巨大資本のしくみに依存しない、固有の経済循環」の様子を観察し、下記4点の現象・価値観の理解を通じて、消費に関するきざし作成の材料となる情報を取得。阿久根エリアと上天草エリアをあわせて、9拠点のフィールド・インタビューを実施した。

  • 地域という閉じた経済圏におけるヒト・モノ・カネの循環系のありかた
  • 非経済的視点を含む、価値交換の在り方や生活者の関わりかた
  • モノやサービスが生み出されるエコシステム上におけるアクターの関係性
  • エコシステムにおける、店舗をはじめとした物理的な場の果たす役割

阿久根エリア……人口減少に合わせた地域リソースの活用を模索

画像1: 撮影:伊藤 建太朗

撮影:伊藤 建太朗

阿久根市は鹿児島県の北西部に位置し、面積は約134.28平方km。東は出水市、南は薩摩川内市と接し、北は長島町と黒之瀬戸大橋で結ばれている。東シナ海の沖合約2kmには、面積約0.1平方km、周囲約4kmの無人島阿久根大島が浮かぶ。温暖湿潤な気候で、農業や水産業で栄えてきた。

市外からの交通は、飛行機であれば鹿児島空港よりリムジンバス(約2時間)で阿久根駅ほか市内各所、鉄道であれば、九州新幹線開業と同時にJR九州から第三セクターに転換された肥薩おれんじ鉄道で、JR八代駅・川内駅から、同市内の阿久根駅ほか、折口駅、牛ノ浜駅、薩摩大川駅にアクセスできる。

人口は2020年に20,000人を下回る19,270人となり、以降、減少が続いている。また、高齢化も急速に進み、生産年齢人口の減少も進んでいる。

そうしたなか、家業を継承した若手事業者による新たな商品開発や事業展開、都市部から移り住んだ住民による地域振興のための取り組みに注目。また、同市には、近隣の市からも大勢の客を集める東京ドーム3個分の売り場面積を誇る地場の大型小売店があり、人口約20,000人の都市で超大型小売店が果たす機能や住民の生活への影響についても、現場を訪れ調査した。

2040年には人口が約12,000人まで減少することが予想されている地域の「縮退」に向き合いながら、将来の豊かさを模索する行政の姿勢と、新規移住者が活躍できる場の支援や若者視点での職場開発・事業拡大など、労働人口減少時代における商業施設・商圏のありかたについて知見を得た。

画像2: 出典:国土地理院 地理院タイル

出典:国土地理院 地理院タイル

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上天草エリア……地元民間事業者による投資で観光地として発展

画像2: 撮影:伊藤 建太朗

撮影:伊藤 建太朗

上天草市は熊本県の西部、有明海と八代海に接する天草地域の大矢野島、上島など大小120の島々で構成されている。面積は全体で126.94平方km。市のほぼ全体が雲仙天草国立公園に含まれており、豊かな自然環境が維持されている。気候は西海型と呼ばれ、冬は暖かく夏は涼しい、寒暖差の少ない気候。果樹や花卉(かき)の栽培、酪農などが行なわれてきたほか、近年は気候や美しい景観を生かした観光地として大きく発展している。

諸島地域のため、昔から海運の地として栄えてきた。1966年に九州本土と天草をつなぐ天草五橋(1号橋:宇土半島〜大矢野島、2号橋:大矢野島〜永浦島、3号橋:永浦島〜大池島、4号橋:大池島〜前島、5号橋:前島〜天草上島)が完成するまでは、船が人や物資を運ぶ重要な役割を果たしており、現在も、橋で結ばれていない有人の島には生活の便として定期航路が運行するほか、観光客の誘致を目的とした定期航路も運行している。

天草五橋の開通のほか、2011年の熊本駅を含む九州新幹線全線開通、JR 熊本駅と三角駅を結ぶ観光特急「A列車で行こう!」の運行開始、2023年に震災からリニューアルオープンを果たした阿蘇くまもと空港など、交通インフラの整備が進んだ地域だ。

現在の市外からの交通は、飛行機であれば天草空港から車(約1時間30分)または阿蘇くまもと空港から車・バス(約2時間)でアクセスできるほか、JRと船の接続運転を利用し、九州新幹線が停車する熊本駅から特急でJR 三角駅へ、そこから定期航路天草宝島ラインで松島にアクセスすることができる。

人口は24,000人強で、2020年から毎年減少傾向にあるものの、周辺地域よりはゆるやか。近年、地元民間事業者からの大規模な投資が進み、観光地として発展しつつあり、農業水産業、海運業とともに観光業も市の基幹産業となっている。
このエリアでは、交通インフラの整備によって人の流れが変わり、地域の産業や人々の暮らしがどのように変化したのかに注目するとともに、わずか10数年で九州有数の観光地として大きく発展した経緯を、地元の観光関連事業者へのインタビューを行なった。

画像3: 出典:国土地理院 地理院タイル

出典:国土地理院 地理院タイル

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