日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

日立製作所研究開発グループと、クリエイティブコミュニティUNIVERSITY of CREATIVITY(以下UoC)の共同開催で、中・高校生、社会人、研究者が協働でパーソナルデータの利活用について考えるワークショップ『日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」』が行われました。
研究開発グループでオープンイノベーションの推進に取り組むデザイナーが、創造性を教育・研究・社会実装するクリエイティブコミュニティであるUoCの担当者と、今回のワークショップを振り返りながら、生活者と企業の研究者・デザイナーが対話することの価値を語り合います。

パーソナルデータ活用の未来を考える

日立・岡田:今回、パーソナルデータ活用をテーマに、望ましい未来のストーリーを生活者と一緒に考えていくワークショップを行いました(※)。参加者は、中・高校生、社会人、シニアの方、研究者と、背景も属性もさまざまでしたが、ところどころ時間がオーバーするほど白熱した議論になりました。今日はこのワークショップを振り返りながら、企業が生活者と対話することの価値を掘り下げていきたいと思います。

画像: ワークショップのファシリテーターを務めた岡田

ワークショップのファシリテーターを務めた岡田

ワークショップでは、日本や世界のパーソナルデータに関する調査や法整備の現状と、日立の活用事例についての紹介を行ったうえで、「自身が身近に感じる課題」と課題を解決した先にある「嬉しいこと」を考えてもらいました。

※ ワークショップの詳細や当日の様子は、UoCのサイトで紹介しております。
  https://uoc.world/articles/details/?id=BoNlctd9WTv

多様な生活者と出会い、社会や人に寄り添ったイノベーションを進めたい

岡田:Society 5.0やSDGsの目標にウェルビーイングが掲げられ、いま、めざすべき未来を語る上で人間の価値観やニーズを中心に置いた人中心の価値が重要になっています。行政では一部で市民を巻き込む取り組みがなされていますが、企業はどうでしょうか?BtoBの企業である私たちは、生活者と直接関わる機会をなかなか持てずにいます。そのような中、オープンイノベーションを進める研究開発部門が、生活者との接点をもつことで、より社会や人に寄り添った技術開発やブレイクスルーを生み出すことができるんじゃないかという思いが今回の背景にあります。できるだけ多様な生活者と接点を持ちたいと考えていたので、協創センターのなかでもビジネスパーソン以外の生活者の方も多く集まるUoCの皆さんとご一緒できたことはとてもありがたかったです。

画像: UoCの立ち上げから関わった田村さんから経緯を伺った

UoCの立ち上げから関わった田村さんから経緯を伺った

UoC・田村さん:UoCを設計するときからいろんな人が混ざり合う場を考えていたので、そう言っていただけるのは嬉しいですね。ここに来る人たちはさまざまな専門性や立場を背景にもっていますが、それよりも、個人としての自由さをもって人と人が出会ったときに、ひとつのテーマでどこまで気軽に面白いことを思いつけるかということに注力してきました。

ワクワクするような問いを真ん中にすることで、集まった人たちが立場を離れて等価の個人として混ざり合いやすくなります。特に、未来について考えるならば若い人がいないのはナンセンスですよね。そんな思いから、小学生から始まるあらゆる年齢層、属性の人を分け隔てなく迎えるカルチャーができていると思います。

日立・佐藤:社会イノベーションを進めるためには、イノベーションセンター、フューチャーセンター、リビングラボの3つが連携することが重要だと言われています。テクノロジー企業の私たちはイノベーションセンター、UoCはフューチャーセンターの役割で、イメージ的にも硬軟まったく異なる両者がコラボレーションすることで起こる化学反応は、相当面白いんじゃないかという期待が当初からありました。

岡田:UoCのこの場所からして自由というか……いままさに、この座談会している隣でも何か作業が始まってますね。カンカン音がしている(笑)。

UoC・小野さん:UoCは、単管パイプを組み直したりしながら、スペースのレイアウトを自分たちで変えられる仕様になっているんです。今日の座談会が動画じゃなくて良かったです(笑)。

岡田:場が姿を変え続けるってUoCらしいですね、まるで生きているように感じます。ワークショップで自由なアイデアがたくさん出た背景には、こうした場の力も大きいと思っています。

画像: UoC内の様子。自由に対話し、発想を広げるしかけがあちこちに隠れている

UoC内の様子。自由に対話し、発想を広げるしかけがあちこちに隠れている

「次の世界を創ることへの責任感」に共鳴

小野さん:日立さんのように30万人を超える企業は、ある意味では国を背負うような側面もあると思うんです。大量生産、大量消費、大量廃棄の直線型経済の下での競争優位といった話ではもう世の中が立ち行かなくなる中で、日立の皆さんは、次の世界を創っていくことに対する責任感を持っているように見えます。今回の取り組みをご一緒したことで、改めてそこに強く共感しています。

画像: 社会イノベーションに対する日立のあり方に共感した、と語るUoCの小野さん

社会イノベーションに対する日立のあり方に共感した、と語るUoCの小野さん

田村さん:私自身、営業として長年クライアントの課題解決に取り組んできたのですが、こうした集中力やクリエイティブ力をもっと社会全体に活かすと、もっと世の中がよくなるんじゃないかという思いからUoCに関わっています。ですから、日立さんに対してもクライアントワークではなく、一緒に社会課題解決に向かう仲間だという思いをもっています。

特に、今回のワークショップで扱った「パーソナルデータの利活用」は本当にやりがいのあるテーマでしたね。日本特有の個人情報に対する非常にディフェンシブな感情を、どうほぐしていけるか、その上でみんなでもっといい方向にもっていくにはどうしたらいいか、個人的にもすごく関心をもっていました。

岡田:社会課題は、解決しなくてはならないものだと頭では分かっていても、やはり身近なところと繋がらないと他人事と感じてしまい距離ができてしまいます。どうやって自分ごととして考えてもらうかというのは、社会課題解決に生活者を巻き込む上で、ひとつの重要な視点だと思っています。

今回のワークショップで印象的だったのが、鰻が好きだという中学生が考えたアイデアです。自分は鰻が好きだが、海洋汚染で鰻が減っていて解決が必要なんだという話から始まって、じゃあ海洋汚染の原因となる家庭排水を減らすにはどうするのか?家庭から出る排水をモニタリングして調整していくことができるんじゃないか、というアイデアが生まれていました。

パーソナルデータは、身近にも関わらず実態が見えにくいという意味では難しいテーマですし、この意見を出してくれた中学生も、一人だったらそこまで辿り着けなかったと思います。やはり、みんなで対話して、思考を深めたからこそ、自分の困りごとを起点にあそこまで考えられたのでしょうね。

画像: 「ワークショップでは属性から離れて個人として向き合った」と語る佐藤

「ワークショップでは属性から離れて個人として向き合った」と語る佐藤

「発表会」ではなく「対話」がしたかった

小野さん:今回のワークショップでは、ファシリテーターが一人ひとりの意見を引き出したり、題材となるストーリーとずれてきたときに、すかさず拾ったり、ポイントを捉えて深掘りしていくような投げかけをしていたことで、非常に面白い対話になったと思います。それと、岡田さんが持ってきてくださった生成AIを使った未来ストーリーの創作は、やはり良かったですね。もともとUoCでも生成AIを活用していましたがさらに面白くユニークにやってくださいました。

私たちもパーソナルデータってかなり漠然としたテーマだと思っていまして、田村とも「このテーマでワークショップは厳しいんじゃないの?」と話して最初は別の形を提案したのですが、岡田さんが「いや、やっぱりワークショップに挑戦したいんです」と。今回あのワークショップが実現できたのは、日立のデザインセンターさんの力が大きいですね。

岡田:ありがとうございます。私はUoCの別のイベントに何回か参加させていただいているのですが、そのなかで高校生とかなり深い対話をしたことが鮮烈な印象となって残っていて、「あれをやりたい」と強く思いましたし、UoCさんとならきっとできるはずだという確信もありました。

また、一般的なワークショップは、実現できるか分からないふわっとした状態でアイデアを出す側面があると思うんですが、今回、各グループに日立のデザイナーと研究者が入っていたので、言葉はなくても、その人たちが「うん、うん」と頷く様子で、参加者は「あ、このアイデアってけっこう行けそうかも」と手ごたえを感じていただけたことは、日立のメンバーが参加した良さだったと思っています。

田村さん:中高生から70代まで、非常に幅広い年齢層の方がいましたが、全員が楽しそうだったのが強く印象に残りました。良い創発ができたときって全員がすごくよく遊んだって顔をしているんですが、今回のワークショップ後の皆さんもそういう顔をしていました。

いまの社会では企業と生活者が完全に分かれていますが、何を作れば売れるかという一方通行の話の前に、「どういう世の中を創っていきたいか」という企業と生活者に共通する問いがあるはずなんです。未来はやはり、相互補完しながら創っていかなくてはいけないし、そのために垣根を取り払って対話することが必要なのではないでしょうか。

岡田:そう思います。ですから、企業が提案して消費者に判断を仰ぐような「発表会」的なスタイルではなく、両者が互いの発言から自由に発想して、どんどん発展させていくジャズセッションみたいな対話をしたかったんです。

田村さん:途中から、どっちが参加者でどっちが研究者だか分からなくなってきた、と言っているチームもありましたね(笑)。

日立・冨岡:一つの発言に触発された方が言葉を乗せていって、最初の考えがアップデートされていく様子がとても印象的でした。

属性を超え、楽しく真剣に語り合うために

冨岡:パーソナルデータというと、漏洩や不正利用など、生活者にとってはネガティブな側面がけっこうあると思うのですが、ある中学生が答えてくださったアンケートの中に、「これまでパーソナルデータって良いイメージがなかったけれど、良いサービスを創るのに役立っていることが分かったし、自分でより良いものに変えていけるんだと分かった」というご感想があったのが嬉しかったですね。

画像: 冨岡はデザイナーとしてワークショップのテーマ設定から関わった

冨岡はデザイナーとしてワークショップのテーマ設定から関わった

佐藤:テーマを前に議論するとき、研究者としての立場だけでなく、人として、社会人として、子どものいる親としてといった、自分の中にあるいくつものパーソナルな側面を総動員して真剣に向き合う必要が出てくるんですよね。相手も同様で、まるごと一個の人間同士が意見をぶつけ合う真剣勝負を楽しみながらできたのではないかと思っています。参加した研究者もやっぱり発想が面白かったですね。会社ではあまり言わないようなことを言っていたんじゃないかなあ。そんなふうにみんなが触発されていた場でしたね。

小野さん:土曜日の昼間という時間設定も良かったのかもしれませんね。休日の雰囲気の中で、4時間という時間をかけたことで、皆さんが自分の中にあるいろいろな引き出しを開けまくって参加されていたんじゃないかな。

岡田:ビジネスパーソンとして考えると、アイデアひとつとっても保護すべきだし、他者を侵害してはいけないし、個人情報もあるし、と守るべきものが増えて身動きが取りづらくなります。UoCのような、ある種の出島や特区のようになんでもやっていい自由な場所があることで、本来生まれなかったものが生まれてくる面白さがありますよね。

後編では、技術者やデザイナーが生活者と語り合ったことで生まれた気づきについて、また、ワークショップ後の「次の一歩」についてお伝えします。

日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(後編)

プロフィール

(※所属、役職は取材当時のものです。)

画像1: 日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

小野 勝彦
UoC プロデューサー

1969年長崎県生まれ。京都大学経済学部卒業後1994年博報堂入社。営業職を経て、2010年より新規事業開発業務へ。経営企画局にてM&A業務に携わり、グループ会社化した企業に取締役副社長として出向。2018年よりビジネス開発局。2022年よりUoCプロデューサー兼務。

画像2: 日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

田村 裕俊
UoC プロデューサー

博報堂で30年営業職を務めたあと UNIVERSITY of CREATIVITY 準備室に異動し事務方代表として機関の立ち上げに参加。 UoCでは社会課題解決とビジネスの連結による次世代型経済成長をテーマに INDUSTRY 領域のリーダーを務める。 私生活では2人の子どもを自然派無認可保育園に通わせ20年来様々な活動に関わる中で自然教育とコミュニティーへの関心に目覚める。

画像3: 日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

佐藤 康治
日立製作所 研究開発グループ
デザインセンタ ストラテジックデザイン部
主任デザイナー

日立製作所のデザイン部門に入社後、家電の商品企画や関西支社でのビジネスプレゼンテーションの経験を経て、日立の取り組みを様々なステークホルダーへ伝えるコミュニケーションデザインに従事。ブランディング、プロモーション、プレゼンテーションといった幅広い領域で日立グループの様々なテーマに対応。現在、研究開発グループの発信活動に取り組んでいる。

画像4: 日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

冨岡 ゆかり
日立製作所 研究開発グループ
デザインセンタ ストラテジックデザイン部
デザイナー

日立製作所入社後、新規事業開発の部隊で事業コンセプトを伝えるプレゼンテーションデザイン、イベントパネルデザイン、医療・介護システムの画面デザインなどグラフィックを中心に幅広く担当。現在は、パーパスを起点に事業のめざす姿や意義を伝え、「共感」で社内外のステークホルダーとのエンゲージメント構築をめざすアプローチ手法研究も含め様々なコミュニケーションデザイン活動に従事。デザインを担当し、現在、国分寺「協創の森」から、様々な発信活動をサポート。

画像5: 日立×UoC 企業と生活者の対話から探る「生活者の課題」と「よりよい未来」(前編)

岡田 量太郎
日立製作所 研究開発グループ
デザインセンタ ストラテジックデザイン部
デザイナー

デザイン事務所に勤務する傍ら町工場で職人としてキャリアをスタート。その後、照明メーカー、オフィス用品メーカーにて、プロダクトデザイン、企画、新規事業立ち上げに携わる。 2020年に日立製作所に入社、社会課題の解決やオープンイノベーションの推進をテーマにコミュニケーションデザインに取り組む。 もの→こと→しくみとデザインの対象を広げて挑戦中。 GERMAN DESIGN AWARD GOLD、グッドデザイン賞 BEST100、THE GOOD DESIGN AWARDS、他 受賞。

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