3月初め、日立製作所は、協創の森のプログラムの一環として主に研究開発グループの研究員らを対象にしたワークショップを実施した。会場となったのは中央研究所協創棟。各地の研究所からのオンライン参加者も含めて、新事業創出に取り組む研究員たちが活発なディスカッションを繰り広げた。
ビジョンで共感を得てチーム力で乗り切る
今回のワークショップのテーマとして取り上げたのは、「インフルエンザ予報サービス」の開発プロジェクト。まず、立案者でプロジェクトをまとめた日立製作所 研究開発グループの丹藤匠研究員が、「インフルエンザ予報サービス誕生の秘話 〜ただの研究員がゼロから新サービス創出に挑んだ悪戦苦闘の一年半〜」と題して講演した。
丹藤研究員がまず強調したのは、自身の想いがこのサービスを提案するきっかけとなったこと。「共働きで3人の子どもを育てているため、子どもが病気なると大変なことになります。なんとか子どもが病気にかからないようなサービスを作りたい。子どもが元気で親も安心して働ける社会を作りたい」という想いが出発点となったのだ。そこから、インフルエンザ予報ができた場合のビジネスモデルの仮説構築、そしてこの社会課題を解決するために、想いを共有する社内外の多くのパートナーとの協創でサービス実証にまでこぎ着けた経緯までを詳しく紹介。さらにこの経験を通して得た新事業開発・協創を成功させるためのノウハウまで公開して参加者たちに共有した。そのうちのいくつかをこっそり公開すると……。
- まずビジョンを語るのが大切
実現したい世界観を示して協創相手に共有してもらえば、お互いに持っているものを出し合って何ができるかというように話が広がる。機能を提案してしまうと、要る・要らないの二者択一になってしまう。
- 自分でエンドユーザーの声を聞くべし
エンドユーザーとなる人たちの声を聞くことで、手探りで考えているときに方向性を定めることができる。事業化の交渉をするときにも、エンドユーザーが求めているものを知っていることは強力な武器になる。
- チームで協力して前に進むべし
協創の過程では多くの人と会ってさまざまな意見をきくことになる。体調、特にメンタル面で厳しい状況に陥ることもある。そうなったときには、一人で抱えずチームで共有してみんなで解決していくことが重要だ。
ディスカッションの焦点は協創の必勝法
次に、このプロジェクトのメンターを務めた日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 立仙和巳担当部長が登壇。プロジェクトの節目節目に何が起こったかをメンターとしての観点から解説した。特に強調したのは、一緒に力を合わせることになったチーム作り。社外の人たちを含むチームでの開発となったため、価値観を共有できるチーム作りと、チームの雰囲気作りに腐心したと語った。
続くディスカッションパートでは、まず丹藤研究員を含む開発メンバー4名が、それぞれの視点からプロジェクトを振り返った。通常ではあり得ないスピードで開発を進めるために各メンバーが発揮した驚くべき行動力、その一方で、問題が起こらないようにストッパーの役割を果たすメンバーの有り難さ、そしてチームに信頼関係があったからこそ思い切った施策をとれたことなど、体験に基づく生々しい話も飛び出した。
会場やオンライン参加の研究員たちからは、社内外とのパートナリングへの苦労や、企画段階からの社外とのチーミングを実現するには? 新事業の検討に充てる時間をどうやって確保すればいいか? といった質問が飛び交った。これに対して、プロジェクトメンバーが、キーパーソンの見極め方や彼らにアプローチする作戦、時間の作り方など、自らの体験に基づいた実践的な解決策を共有した。イノベーションを実行するには、“1を10に”“10を100に”する人ではなく、“0を1に”するアーティストのような人とつながっていくことが必勝法という指摘には、多くの参加者が深く肯いていた。
終了後も、会場に残ってディスカッションを続ける参加者も多く、研究員たちの協創に対する熱い想いが現れるワークショップとなった。