データ移転工数が約1/6となり、日・欧・米・豪のデータ越境移転規制を遵守したデータ流通を実証
日立は、個人データなどのデータ保護および各国・地域が定めるデータ保護法を遵守しながら、国や地域をまたぐ分析・移転処理を円滑に行えるグローバルデータ流通基盤技術を開発しました。本技術は、個人データなどの秘匿性の高い情報を含むデータを、生成された国や地域で人手を介さずに分析し、個人データを含まない分析結果だけを別の国や地域に移転するシステムです。今回、日本、オーストラリア連邦、アメリカ合衆国、ヨーロッパの4拠点にシステムを構築して実証したところ、従来の手法と比較して、データ移転工数を約1/6に縮小できることを確認しました。
本技術はLumada Solution Hub*1に登録され、今後、日立はデータ保護を遵守しながら世界各地のビジネスシーンで生成されるデータの利活用をさらに促進して、デジタル技術によるさまざまな社会課題の解決に貢献していきます。
背景および取り組んだ課題
昨今、データの自由な利活用があらゆる社会活動において促進される一方で、個人データや機密情報を厳正に管理し、適正に活用することが強く求められています。この考えは、「Data Free Flow with Trust(信頼性のある自由なデータ流通)」として2019年の世界経済フォーラムの年次総会で日本が提唱し、グローバルでのデータガバナンスとビジネスの拡大に求められる基本的なコンセプトと考えられています。近年ではグローバルに生産拠点を持つ企業が生産性を高めるために、デジタルソリューションによって可視化した従業員の熟練度を分析し、生産計画の改善や従業員への作業支援などに活用する事例などもあります。このような場合、国や地域を跨いだデータ移転を適切に行うために、GDPR*2などのデータ保護法が規定する秘匿性・機密性の高いデータのマスキング処理を各拠点内で行い、処理結果を集約してデータの分析を行う必要があります。しかし、これらの一連の作業には、各拠点でエンジニアが人手で分析を行っており、作業工数が大きくなってしまうことが課題となっていました。
開発した技術
データ保護法などの規制を遵守して、少ない工数で円滑にデータ移転を行えるグローバルデータ流通基盤技術を開発しました。
確認した効果
今回、日本、オーストラリア連邦、アメリカ合衆国、ヨーロッパの4拠点にシステムを構築して実証したところ、従来の手法と比較して、データ移転工数を約1/6に縮小できることを確認しました。
発表する論文、学会、イベントなど
本技術の一部は2020年8月3日~6日に英国オックスフォード大学で開催されたIEEE MobileCloud 2020で発表済です。
開発した技術の詳細
1. 環境に依存せず自動でデータ移転できるアプリケーション実行技術
本技術では、複数の国や地域をまたぐデータ移転を行う際に、集積拠点からデータ分析アプリケーションを実行することで、人手を介さずに自動でデータ移転を実施できます。さらに、本技術にはLumada Solution Hubと同様のコンテナ技術*3を適用しているため、システムが異なる拠点でも、システム環境に依存せずに分析アプリケーションを実行することができます。これらの特長により、複数の拠点に分散しているデータの分析と移転処理を1つのアプリケーションで実行できるため、データの分析依頼からデータ分析者への結果送信までの作業工数の削減に貢献することができます。
2. 高信頼な分散処理基盤HAF/EDCの活用による拠点間の処理連携方式
拠点間での処理命令の伝送において、高信頼でスケーラブルな分散処理を実行できる基盤Hitachi Application Framework/Event Driven Computing*4(以下、HAF/EDC)を活用しています。これにより、大量データを複数の分散環境でも高速に処理することができ、データ分析・移転の工数を抑えることができます。また、HAF/EDCには、サーバに障害が発生した際に自動的に他サーバと連携して処理を継続させる機能が備わっているため、高い信頼性を必要とするアプリケーションも容易に実行できます。
*1 Lumada Solution Hub: お客さまとの協創により培った技術・ノウハウを結集したLumadaソリューションやアプリケーション開発環境を導入しやすい形にパッケージ化してカタログに登録し、クラウド基盤上で提供するサービス。詳しくは、Lumada Solution Hubの紹介ウェブサイト
(https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/about/lumada_hub/)をご覧ください。
*2 GDPR:General Data Protection Regulation(一般データ保護規則)
*3 コンテナ技術: アプリケーションのプロセスを仮想的に実行する技術であり、Lumada Solution Hubでは、主にDocker社のDocker、およびOSS (Open Source Software)のKubernetesを活用しています。詳しくは、Dockerの紹介ウェブサイト(https://www.docker.com/)および、Kubernetesの紹介ウェブサイト(https://kubernetes.io/)をご覧ください。なお、DockerはDocker社、KubernetesはLinux Foundationの登録商標です。
*4 HAF/EDC: 大量データを分散環境で高速に処理する目的で誕生した、イベント駆動型のシステム開発基盤・アプリケーション実行基盤。詳しくは、HAF/EDCの紹介ウェブサイト(https://www.hitachi.co.jp/HAF_EDC/)をご覧ください。
照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ
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