JR中央線コミュニティデザインが運営するnonowa国立にて集客に有効な運営施策を発見

画像: 図1 CPS適用によりショッピングモールの実態に合った納得感のある運営施策の発見を実現

図1 CPS適用によりショッピングモールの実態に合った納得感のある運営施策の発見を実現

日立は、地域活性化の起点となる地域密着型ショッピングモール向けに、施設運営のPDCA*1サイクルを支援するサイバーフィジカルシステム(CPS)のプロトタイプを開発しました。本プロトタイプでは、POSシステム*2から得られる各店舗の売上データに加え、LiDARセンサー*3から得られる買い物客の流れ(人流)のデータ、日々の運営施策データ、さらに現場有識者の知見をサイバー空間上のデジタルツイン*4に取り込み、AIで分析を行った上で有効な施策を提示します。これにより、モール経営者、現場責任者、テナント経営者は、客層や地域特性など各店舗の実態にあった運営施策を自ら発見することで納得感を持った施策立案が可能になります。JR中央線コミュニティデザインが運営するJR国立駅に隣接したショッピングモールnonowa国立で実証実験を行った結果、これまで把握できていなかった購買行動や運営施策効果などを定量化できることを確認し、有効な運営施策を発見しました。今後日立は、国内外のショッピングモールの特性に合わせた運営施策を支援するソリューションとしてシステムの実用化をめざし、地域の活性化に貢献していきます。

本実証実験を行うにあたり、JR中央線コミュニティデザイン様(実証実験実施当時の社名はJR中央ラインモール)より、現場や各種データ、および現場有識者の知見をご提供いただきました。 なお、本成果の一部を2021年8月25日から27日に東北学院大学(オンライン)で開催されるFIT2021で発表予定です。

開発した技術の詳細

開発した施設運営のPDCAサイクルを支援するCPSは、以下の技術により構成されています。

1. 各入口から入場する買い物客の売上貢献度推定技術

ショッピングモールの複数の入口は、それぞれ住宅街、交通機関など隣接する区域の違いによって、客層や買い物客の購買行動の特性に違いがあります。この違いを把握するために個々人の店内での行動を詳細に追跡し、POSデータの時々刻々の購買データと突き合わせる方法もありますが、プライバシーに配慮する必要があります。そこで、個々人の購買行動の詳細な追跡無しに、各入口からの入場客の売上貢献を推定する技術を開発しました。本技術では、個人を特定せずに人流データの取得が可能なLiDARセンサーにより計測した、モール各入口からの日毎の来場者数データとモール売上高の時系列データを融合した確率的回帰分析を行うことにより、各入口の来場者数と売上の間の相関を算出します。これに基づいて各入口からの来場者の平均買い物額を推定します。これを元の来場者数データと組み合わせることにより、どの入口からの来場者がどれだけ売上に貢献しているかを定量的に推定することが可能となります。時系列データを平日と週末に分けて分析することで、貢献度を平日/休日に分けて評価することができるほか、さらに細かく曜日ごとの分析や各入口からの来場者の購買率(一度でも買い物をする確率)の推定が可能です。このような推定値を活用することにより、「どの出入口に優先的に広告を設置すべきか」といった、現場責任者がこれまで経験と勘で行っていた判断を、より合理化することが可能になります。

画像: 図2 売上貢献度推定技術の概要

図2 売上貢献度推定技術の概要

2. 運営施策効果の予測精度と現場有識者の納得感を両立する知識駆動型モデリング技術

過去に実施された運営施策とその効果に関するデータを集めて、運営施策の効果を予測する機械学習モデルを構築する場合、大量の過去データが必要なことや学習に使ったデータやパラメータによってAIの予測根拠が安定せず*5、現場の納得感が得られないという課題がありました。本技術では、過去のデータに加えて、現場責任者やテナント経営者などの現場有識者が持っている知見を機械学習モデルに直接取り込むことで、少ないデータでも高精度、かつ、納得感のある施策効果の予測を実現します。

機械学習モデルに取り込む知見は、(1)特定の要因と効果の関係性、(2)要因の重要度の順位付けとなります。具体的には、(1)では、まず有識者から「この要因と効果の間には直線関係がある」「この要因が増加すると効果も単調増加する」というような知見が挙げられます(図3-1)。次に、過去データから予測の根拠が異なる多数の予測モデルを構築し、それらの予測モデルの結合重みを調整することで、最初に挙げられた知見と合致する予測モデルを構築します。これにより、少ないデータでも有識者の知見と合致する高精度な予測モデルを構築することができます。また、(2)では、過去データから予測の根拠が異なる予測モデルを複数構築し、それらの予測モデルに有識者の知見と合うものから順位付けすることで、より納得性のある予測モデルを構築します(図3-2)。

画像: 図3-1 (1)の方法による有識者知見の注入(特定の要因と効果の関係性)

図3-1 (1)の方法による有識者知見の注入(特定の要因と効果の関係性)

画像: 図3-2 (2)の方法による有識者知見の注入(要因の重要度の順位付け)

図3-2 (2)の方法による有識者知見の注入(要因の重要度の順位付け)

3. 無施策の場合の集客/売上予測との比較による経営施策の効果の定量化技術

従来、運営施策の効果の検証は、過去のデータの分析による効果に影響を与える要因の分析、分析結果にもとづく施策の立案、施策実行後の効果の検証、のように運営施策の効果をBefore/Afterで比較して検証する方法が一般的でした。しかし、この方法では現在のコロナ禍のように、日々変化する状況に追従して有効な運営施策をAIが提案することは困難です。

今回の実証実験では、各運営施策を未実施の場合の予測値と実績を比較することで施策効果を定量化し、効果の予測に基づく実施すべき施策の提案、さらに、実施した施策の効果を再び定量化することで、有効な運営施策を継続的に抽出する手法を開発しました。

下記のグラフ(図4)では、何も施策を実施しなかった場合の来客数の予測が水色の帯で表されています。赤い線は来客数の実績を表しており、12月26日に近隣にチラシを配布した後の最初の週末である12月28日に予測の幅を大きく超えた来客数となっていて、チラシ配布の効果があったことが分かります。

図4 未実施の場合の予測値との比較による運営施策実施効果の定量化

*1 PDCA:Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返し行うことで、継続的な業務の改善を促す手法。
*2 POSシステム:Point of Saleの略。日々の売り上げを商品の種類ごとに集計・分析して、そのデータを経営に活かすためのシステム。
*3 LiDARセンサー:レーザー光を照射し反射光や散乱光を検出することで、対象物までの距離や形状を測定する装置であり、個人を特定せずに
   人流データの取得が可能。
*4 デジタルツイン:リアル(物理)空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術
*5 この現象は羅生門効果として知られていて、AIの信頼性に対する課題となっています。

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ
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