北海道岩見沢市との協創により自立型ナノグリッドの実証サイトを開設、地元企業や農家の方々の協力のもと実証試験を開始

画像: 図1 地産地消・自立型地域エネルギーシステム(左)と自立型ナノグリッド(右)

図1 地産地消・自立型地域エネルギーシステム(左)と自立型ナノグリッド(右)

日立は、北海道岩見沢市との協創により、地域産業の低炭素化と防災機能強化を両立する地産地消・自立型地域エネルギーシステムとして、岩見沢市の北村赤川鉱山施設に自立型ナノグリッド*1の実証サイトを開設(図1)しました。本実証サイトにおいて日立は、地元企業や農家の方々の協力のもと、2021年11月9日から実証試験を開始し、温泉に付随するメタンガスや農業で廃棄される作物の残渣など安価な未利用資源を用いたマルチ燃料エンジン*2による発電や、太陽光発電によって得られた電力を、電動の農業機械や農薬散布用ドローンの充電に活用し、農業の低炭素化に貢献します。また、災害などによる大規模停電時には、避難所の非常用電源として自立型ナノグリッドから電力を供給可能です。本システムの運転には、日立北大ラボが北海道大学と連携してこれまで開発してきた数理最適化技術が活用されます。今後日立は、日立北大ラボなど産学官地域連携の拠点をベースに、パートナーとの協創を通じ、脱炭素化をはじめとするグリーン社会の実現に貢献します。
なお、本実証サイトのオープニングセレモニーを北海道大学、岩見沢市と共同で11月9日に行います。

開発した技術の詳細

日本政府が昨年、2050年カーボンニュートラルを宣言して以来、地域のエネルギーを地域で有効活用し、再生可能エネルギーの普及拡大や災害時に利用できる地産地消・自立型地域エネルギーシステムの重要性が高まっています。特に、過疎化が進み、電力需要地や再生可能エネルギーの適地が分散している北海道においては、従来のマイクログリッド*3よりも小規模な自立型ナノグリッドの導入が期待されます。しかしながら、太陽光発電や風力発電は供給量の変動が大きく、電力を安定供給するためには、一定以上の規模のグリッドが必要とされ、高い導入コストが課題となっていました。今回、小規模なナノグリッドでも電力系統から自立して運用可能なシステムを構築するとともに、日立北大ラボが北海道大学と連携してこれまで開発してきた数理最適化技術を駆使し、電力変動に対する電力収益予測の提供と地域の実情に合わせて最適なエネルギーシステムの導入を検討可能な電力運用モデルを開発しました。

今回開発した地産地消・自立型地域エネルギーシステムは、以下の技術により構成されています。

1. 未利用資源を活用し、再生可能エネルギー導入を加速するナノグリッド自立運転技術

今回開発した自立型ナノグリッドの電源は、食品残渣や農業残渣からなどの安価な未利用資源で製造可能な低濃度エタノールや、温泉に付随するメタンガスを用い、燃焼制御AIにより高効率な発電が可能なマルチ燃料エンジンと、太陽光パネルにより構成されます(図2)。ここで得られた電力を電動の農業機械や農薬散布用ドローンのバッテリー充電に用いることで、地域の未利用資源の活用と再生可能エネルギー導入加速に貢献します。また、気象条件等に起因する太陽光パネルの発電量の変動に対し、マルチ燃料エンジンの発電量をリアルタイムで最適に制御することで、既存の電力系統に頼らない自立運転を実現します。さらに本ナノグリッドは、日常においては農作業の低炭素化を支援し、災害など非常時には電力系統から自立して避難所に電力を供給するなど、地域の防災機能強化にも貢献します。

画像: 図2 岩見沢市北村赤川鉱山に開設された自立型ナノグリッドの実証サイト

図2 岩見沢市北村赤川鉱山に開設された自立型ナノグリッドの実証サイト

2. 電力の収益予測が可能なナノグリッド相互連携シミュレーション技術

本ナノグリッドを将来的に複数敷設し、EV等を用いて互いに電力を融通するエネルギーシステムを構築することにより、電力の収益向上と、大規模グリッドに匹敵する安定した電力運用が期待できます。本システムの実現には、気象変動等に起因する太陽光パネルの発電量変動や、各農家の電力需要変動等を考慮し、システム全体の電力を最適に制御する必要があります。今回、本システムを構築した際の電力収益を予測可能な、ナノグリッド相互連携シミュレーション技術を開発しました(図3)。本技術は、複数のナノグリッドが連携したシステムをモデル化し、気象変動や電力需要の変動等の環境変化に対し、ナノグリッド同士が協調して電力を運用し、EVの充放電を行う実用的な計画を計算により求め、短期・長期での電力収益を予想します。

本シミュレーション技術を用いて、岩見沢市における過去10年間の日照データから気象条件をモデル化し、農業の作業日誌データから農業機械を電動化した際の農家15戸分(農地150ha)の電力需要モデルを構築しました。さらに、今回開設した実証サイトと同規模のナノグリッドを岩見沢市内に3基敷設し、各ナノグリッド間の余剰電力を3台のEVで融通するモデルを作成し、日常における電力の収益を予測した結果、農家15戸に対して既存の系統電力網に依存する電力消費量を10%以下に抑えられることを確認しました。本シミュレーション技術により、自治体が地産地消型エネルギーシステムを構築した際の効果を短期・長期で評価することを可能とし、地域に即した脱炭素化に貢献します。

画像: 2. 電力の収益予測が可能なナノグリッド相互連携シミュレーション技術
画像: 図3 開発したナノグリッド相互連携シミュレーション技術と、それを農作業に適用した結果

図3 開発したナノグリッド相互連携シミュレーション技術と、それを農作業に適用した結果

なお、本成果の一部は、経済産業省 産学融合拠点創出事業「チャレンジフィールド北海道」におけるF/S調査の結果得られたものです。

*1 自立型ナノグリッド:マイクログリッドより小規模の電力系統。地域レベルでの管理が可能。
*2 燃料の種別や混合状態に応じた燃焼制御方法を自己学習する発電用エンジン向けAI 技術を開発(2018年5月10日)
  https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2018/05/0510a.html
*3 マイクログリッド:すべての電力負荷を分散型電源から供給する電力系統

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ
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