環境にやさしいリチウムイオン電池を搭載した蓄電システムの高信頼化・長寿命化に貢献

日立は、レアメタルを含まない「リン酸鉄系」リチウムイオン電池(以下、LIB)の劣化状態を非破壊で診断する技術を世界で初めて開発しました。これまで日立は、蓄電システムの高信頼化・長寿命化に向けて、2007年度より正極材料にレアメタル(コバルト・ニッケル)を用いた「三元系」LIB*1の充電率と電池電圧のデータ解析から、電池の劣化状況を非破壊で診断する技術を発表してきました*2。今回、レアメタルを含まない環境にやさしいリン酸鉄系LIB*3の容量と内部抵抗のデータを用いた解析技術を開発することで、劣化状況を非破壊で診断することが可能となりました。日立は本技術を、送配電事業者や電動モビリティのオペレータ等に広く利用いただくことで、高効率かつ持続可能な蓄電システムの普及を促し、脱炭素社会の実現に貢献します。

なお、本成果の一部は、2022年11月8日~11月10日に福岡市で開催された第63回電池討論会において発表されました。

LIBは、再生可能エネルギー向けの定置用蓄電システムや、電気自動車の動力源として需要の増加が見込まれています。これまでの主流であった三元系LIBはエネルギー密度が高く、低温時にも安定した出力が得られる特長を有しますが、材料の採掘・精錬場所の偏在や環境汚染、不安定な材料価格が問題となっています。そのため近年では、レアメタルを含まない環境にやさしいリン酸鉄系LIBの需要が高まっており、2021年の世界シェアは20%、2030年には40%まで拡大すると予想されています*4。リン酸鉄系LIBを搭載した蓄電システムの高信頼化・長寿命化には、劣化状態を非破壊で診断できる技術が必要です。日立は三元系LIB向けに非破壊劣化診断技術を開発しており、劣化予測や容量回復技術*5による長寿命化に活用してきました。今回、電池容量と内部抵抗のデータを用いた解析技術を開発し、リン酸鉄系LIBの劣化状態を非破壊で診断する方法を見出しました。本技術の特徴は以下のとおりです。

開発した技術の詳細

電池容量―内部抵抗データ解析による非破壊劣化診断技術

画像: 図1 リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断技術

図1 リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断技術

日立は、LIBの容量と電圧の関係(以下、容量―電圧曲線)を解析して劣化要因である(A)正極劣化、(B)負極劣化、(C)電解液中のリチウムイオンの失活、を分離・定量する非破壊劣化診断技術を開発しています(図1(a))。しかしリン酸鉄系LIBでは、上述の容量―電圧曲線において、図1(a)に示すように、横軸方向に平坦な領域が多く、正極収縮の影響が電池電圧に反映されにくいため、劣化量を正確に測定することが困難でした。そこで今回、正極および負極内部のLiイオンの拡散係数*6がそれぞれの容量に応じて変化することに着目しました。具体的には、Liイオンの拡散係数を定量評価できるように、数十秒オーダーで放電を断続させながら容量―内部抵抗曲線を測定し、予め測定された正極および負極単独での容量―内部抵抗曲線のデータと比較することにより、3つの原因毎に劣化量を測定できることを見出しました。このような容量―内部抵抗データ解析技術により、従来の三元系LIBと同等の精度でリン酸鉄系LIBの劣化状態を非破壊で診断可能となりました(図1(b))。本技術は、電池の材料、製造、充放電制御それぞれの技術分野の専門家が協働することで創生されたもので、三元系LIBの診断にも適用可能です。

今後は、本技術を送配電事業者や電動モビリティのオペレータ等に広く利用いただくことで、高効率かつ持続可能な蓄電システムの普及を促し、脱炭素社会の実現に貢献します。

*1 三元系LIB:ニッケル、マンガン、コバルトを正極に使用した車載向けリチウムイオン電池
*2 2007年11月13日~15日 第48回電池討論会: 発表番号3C05 「放電曲線を用いたリチウムイオン電池の状態判定」
*3 リン酸鉄系LIB:リン酸を正極に使用した、三元系に比べ原材料費が安く、安全性が高いリチウムイオン電池
*4 リン酸鉄系LIBの世界シェア:(出典:2022年2月9日 経済産業省「蓄電池産業の競争力強化に向けて」)
*5 2021年10月29日 研究トピックス:「リチウムイオン電池の寿命を非破壊で延長できる容量回復技術を開発」
  https://www.hitachi.co.jp/rd/news/topics/2021/2110_crt.html
*6 拡散係数:媒質中での粒子の拡散の速さを表す比例定数。

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株式会社日立製作所 研究開発グループ
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