資源の枯渇や廃棄物の増大といった環境負荷がグローバル課題となる中で、日立製作所と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が2022年に設立した「日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ(以下、日立-産総研CEラボ)」の第3回オープンフォーラムを開催しました。今回のフォーラムでは、「多様なステークホルダーが共存し、社会の仕組みが寄り添い循環を促す社会」という「ありたき将来」の実現に向けたロードマップや要件に加え、デジタルソリューションや標準化に関する具体的な取り組み事例を紹介しました。また、サーキュラーエコノミー社会への移行を加速するために重要となるステークホルダー間の連携や、経済性と環境性の両立を可能にする施策のあり方について、外部有識者を招いて議論しました。
開会挨拶

左から石村理事長、鮫嶋執行役常務
開会挨拶では、産業技術総合研究所の理事長 兼 最高執行責任者 石村 和彦氏が、近年の資源循環をめぐる国内外の制度整備やレアメタルなどの資源安全保障への関心の高まりに触れ、サーキュラーエコノミーが社会システム全体に関わる重要な課題になっていると指摘しました。その上で、技術・ビジネス・制度を一体で設計し、社会実装へつなげる力の必要性を強調しました。「産総研は国内最大級の総合研究所として、国内外の企業、大学、公的機関を集結してイノベーションエコシステムを形成し、多様な社会課題の解決に資する技術開発と社会実装に取り組んでいます」と述べ、産総研と日立の強みを掛け合わせ、サーキュラーエコノミーの未来をひらく本ラボへの期待を示しました。
次に挨拶に立った日立製作所 執行役常務CTO 兼 研究開発グループ長 鮫嶋 茂稔は、資源をめぐる動きが世界中で活発化し、資源循環は「資源レジリエンス」としての新たな局面を迎えていると述べ、業界を超えた連携による資源の地産地消や再資源化を推進することの重要性を強調しました。また、本ラボでは「多様なステークホルダーが共存し、社会の仕組みが寄り添い循環を促す社会」という「ありたき将来」を掲げ、産官学の議論を重ねながらその実現に至る具体的な道筋を描いてきたと紹介しました。「実現に向けては、物質だけでなくエネルギーや情報も資源と捉えて循環させることが大切です。特に、急激に発展するAIの活用が、サーキュラーエコノミーと資源レジリエンスの実現を後押しすると考えています」と結びました。
特別講演
「CE実現に向けた多様なステークホルダーの連携におけるDXの役割と国際標準化戦略」

中村会長
一般社団法人循環経済協会会長、ISO/TC323(サーキュラーエコノミー)の国内委員会委員長などを務め、サーキュラーエコノミーに精通する中村 崇氏が特別講演を行いました。
資源循環の目的は、ウェルビーイングであり、経済成長と資源消費のデカップリング(切り離し)であると言われます。しかし、単に切り離すだけでなく、経済成長に伴う資源消費の増大やその結果として生じる気候変動、生物多様性の喪失などの「社会課題」を「経済」と「共進化」させながら解決することが重要です。
もうひとつ重要なポイントは国際標準化です。本来、国際標準は世界でモノを円滑に流通させるためのものですが、近年は「環境」を軸に非関税障壁として戦略的に活用される傾向も強まっています。市場創造などの長所がある一方、何をどのように標準化するかという戦略が必要です。特に、企業だけでなく金融機関の理解と協力を得ることも不可欠です。
サーキュラーエコノミーの国際規格ISO59000シリーズの規格化は2019年に始まり、原理原則、ビジネスモデル、循環指標、事例、情報伝達の各WG(ワーキンググループ)での議論の紆余曲折を経て文書化に至りました。2024年5月に発行されましたが、成立と同時に見直しが合意されるという異例の展開となっています。サーキュラーエコノミーの定義を決める際にも専門委員会での議論が紛糾したものの、最終的には「持続可能な開発に貢献しながら、資源の回収、保持、価値の付加により、資源の循環的な流れを維持するためのシステマティックなアプローチを用いる経済システム」という定義が示されました。ポイントは、資源をストックとフローの両方について考えること、持続可能な開発の観点から、バージン資源の流入を可能な限り抑制し、資源の排出と損失(廃棄物)を最小化するために、資源の循環的な流れを可能な限り閉じた状態に保つことです。
ただ、サーキュラーエコノミーは本当に経済として成り立つのか、付加価値はどこから生まれるのかという問いは依然として残されています。製造業では、資源→素材→材料→部品→製品・商品→利用→再利用→リサイクルおよび廃棄物処理の各段階で付加価値が生まれます。これまでは顧客の拡大により全体の付加価値が増大してきましたが、地球環境を考えると無制限に拡大はできず、量から質への転換が求められます。またサプライチェーン全体では、各セクターでの廃棄物処理費の削減と、セクター間物流の合理化も付加価値創造につながります。その実現にはネットワーク的思考が必要であり、モノの移動に伴う情報を可視化するデジタル技術の活用、DX(デジタルトランスフォーメーション)がカギとなります。
サーキュラーエコノミーでは「モノ」から「情報」へ価値が移るという視点が重要になります。DPP(Digital Product Passport)のようなマテリアルプラットフォームは有力な新規ビジネスになりますが、動脈系だけでなく静脈系とどう情報連携するかが大きな課題です。資源循環全体を視野に入れたシステムが求められるでしょう。
最後に、サーキュラーエコノミーはローカルとの親和性が高いということを強調しておきます。地域内で短くモノを回し、それを全体につなぐ構図を描き、コントロール可能な仕組みにしていくことが有効であると考えます。
日立-産総研CEラボからの講演
(1)活動概要
日立-産総研CEラボの宮崎 克雅ラボ長は、ラボの活動概要について次のように報告しました。
まずサーキュラーエコノミーをめぐるグローバル動向については、日本は産官学協調型で、資源有効利用促進法の改正法案成立や、経済産業省主導のCPs(サーキュラーパートナーズ)に800超の組織・団体が参加するなど、活発な動きが見られます。欧州は規制主導型で、エコデザイン規制やELV(使用済み自動車)規則、重要原材料確保に向けた行動計画が進展しています。米国は先進企業主導型で資源回収の取り組みが進む一方、資源確保をめぐる動きも強まっています。中国では国家主導型のもと、第14次五カ年計画においてサーキュラーエコノミーを国家戦略の柱の1つに位置づけ、複数のアクションプランが実行され始めています。
このように、資源レジリエンス強化の観点から各国・各地域で資源循環が加速している状況をふまえ、日本における課題を3つに整理しました。第一は、資源循環が経済成長につながる社会像を共有すること。第二は、環境・経済価値を実現する具体的なソリューションを創出し実装すること。第三は、日本が不利益を被らず、かつ地域性を認め合えるルール形成戦略を立て、実行に移すことです。
これらの課題の解決をめざして設立された本ラボでは、3つの研究テーマに取り組んでいます。1つ目はサーキュラーエコノミー社会の「ありたき将来」と移行プロセスを示し、共有・共感の獲得をめざすグランドデザインの策定、2つ目はありたき将来の実現に向けたデジタルソリューションの開発、3つ目は国内企業の国際競争力強化に資する攻めと守りのルール形成をめざした標準化戦略の立案と施策提言です。
それぞれのテーマに関し、経済産業省、環境省、アカデミア、企業、高校生など多様な関係者との対話を重ねながら研究を深めてきました。そして「ありたき将来」を定義し、その実現に向けて、ラボ版のライフサイクルシミュレータを開発し、実装しました。また、国際標準化項目の提案、ISO国内委員会やWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)との対話も開始しています。そうした成果の積極的な外部発信を通じて、新たな課題意識や気づきを得てきました。
今後は、物質・エネルギーに加えて情報・知識も資源と捉えて、それらをステークホルダー間の垣根を超えて連携させることが必要です。これにより、高効率な回収、解体・分離、さらに、資源の残存価値の評価などが可能になると考えています。
(2)CE社会における「ありたき将来」の実現に向けたロードマップ
日立製作所の伴 真秀と産総研の武仲 能子氏から、ありたき将来の実現に向けたロードマップについて説明しました。まず伴は次のように述べました。
私たちがめざす循環経済社会は、物質、エネルギー、情報・知識が高度に循環する人間中心の社会です。本ラボでの3年間の活動で、「ありうる将来」の創出、「ありたき将来」の具体化、さらにその実現に向けたロードマップの検討を進めてきました。「ありうる将来」では、人間同士の対話と“未来シナリオシミュレーション”の結果を組み合わせ、シミュレーション結果から導出した2万通りのシナリオを9種類に集約し、そこから「ルール整備」、「技術革新」、「人の行動変容」という3つの分岐要因を抽出しました。
9種類の中で有望だったシナリオ群の中から私たちが「ありたき将来」として選んだのは、「資源循環に対する人々の行動や価値観と、それらを後押しする技術が共存する仕掛けができている」というものでした。技術先行ではなく、人の行動に技術が寄り添い、下支えするという姿が望ましいと考えました。
このシナリオの実現に必要な要件は、2030年頃までのルール整備、製品長寿命化に関わる技術・サービスの普及、資源循環の促進へ人々の行動が変容することです。これをふまえ、「ありたき将来」を、「人々の多様な価値観に対し、ルールや技術など社会の仕組みが寄り添い、長寿命化による循環を促す社会」と定義しました。環境に対し興味・関心のある人にも、利便性を重視する人にも、それぞれ自然に資源循環に関われる仕組みが必要だと考えています。
その鍵になるのがインセンティブ設計です。インセンティブはポイントやキャッシュバックのような金銭的なものだけでなく、規制やルール、技術やサービス、コミュニティや慣習も含め、広く循環を後押しする仕組みとして捉えています。
続いて武仲氏は次のように報告しました。
「ありたき将来」に至るロードマップは、ワークショップを通じたバリューネットワーク構築と、それらを活用した有識者との議論を経て、各分岐点で中心となるインセンティブを導出し、それをロードマップ化することで行いました。現状のバリューネットワークには、回収が困難、循環コストが高い、社会全体にサーキュラーエコノミー行動が広がりにくい、という3つの大きな課題があります。これらに対応するため、先に述べた3つの分岐要因ごとにインセンティブを検討しました。
「ルール整備」の段階では、使用済み製品の回収が進みにくいという課題に対し、「適切廃棄のデジタル証明」や「質・量が担保された資源の安定回収機会」といった仕組みを通じ、ユーザー企業やメーカー、解体企業の参画を促します。また、「モノのサービス化」を後押しする指標や制度により、回収チャンネルの構築と事業者の収益構造の多様化を図り、回収を促進します。
「技術革新」の段階では、回収量の制限や質のばらつきによる高コスト構造に対し、AIを活用した循環を拡張する技術で経済合理性を高めます。易解体設計、自動修理技術、残存価値診断技術などにより、再生事業の効率化や高度化、製品の二次取引における付加価値向上をめざします。
「人の行動変容」の段階では、環境意識の高い人だけに循環行動が偏る課題に対し、多様な価値観を肯定する選択肢やコミュニティを整え、意識しなくても自然に循環へ関与できる社会、誰もが循環に共感できる社会の醸成をめざします。
今回の産業機器を対象とした方法論は、他分野のサーキュラーエコノミー移行ロードマップにも応用可能であり、今後は提言書として発信し、社会実装につなげていく予定です。
(3)「ありたき将来」の実現を牽引するデジタルソリューション
産総研の河野 一平氏と古川 慈之氏から、「ありたき将来」の実現を牽引するデジタルソリューションについて報告しました。まず河野氏は次のように説明しました。
私たちは、「ありたき将来」に向けて、物質、エネルギー、情報・知識と経済の循環を牽引するサイバーフィジカルシステムを構想しています。実際の現場でデータを収集、サイバー空間で評価・分析・改善提案を行い、行動改善につなげることで、環境価値の最大化と各ステークホルダーの事業成長を両立させていきます。
構想の実現に向けて、環境・経済価値を定量評価するライフサイクルシミュレータと、循環で特に重要な「静脈」をデジタル化する技術を開発し、検証を重ねてきました。
ライフサイクルシミュレータは、製品ライフサイクルのモデル化により、マテリアルフロー、CO2排出、経済価値の収支を解析し、ライフサイクル全体と各ステークホルダーの環境・経済指標を定量評価するものです。製品・部品・材料単位の循環を同時に解析できるほか、複数の指標を目的に応じて使い分けられ、多様な循環パターンを扱うことができます。
さらに、ユーザー行動のモデル化機能も実装しました。ユーザーが使用済み製品の回収先を複数から選択する場合の確率をモデル化し、それを用いて回収サービスの仕様を変えた場合の回収率を予測、目標回収率に応じたサービス設計を可能にします。
日立産機のスクリュー圧縮機を対象に、製品更新時に使用済み製品を回収し、再利用可能な部品を抜き出して活用する仕組みを構想、モデルの検証を行いました。解析の結果、回収サービス価格の適切な設定により利益を最大化できること、CO2削減や部品再生による環境貢献をユーザーに訴求することで回収率と利益の双方が向上することがわかりました。
続いて古川氏は、静脈デジタル化による環境負荷評価の精緻化について、次のように報告しました。
静脈デジタル化では、回収品の把握と静脈プロセスの環境負荷削減に向けて、3つの要素技術を開発しました。1つ目は、タグや銘板が読めない場合でも画像からテンプレートマッチングにより型番を識別する技術です。特徴点抽出とクラスタリングによりテンプレート画像を自動生成し、データベースを更新できるようにしました。試作システムを自動車部品で検証した結果、97%の識別率を達成しています。
2つ目は、安価で簡便な無線センサシステムによる、設備の消費電力量と使用時間の把握です。多数の設備を遠隔から常時計測したデータを活用し、解体や再生のプロセスにおける環境負荷やコストを可視化して効率化します。
3つ目は、静脈プロセスにおける原単位の作成です。工程ごとの環境負荷を電力以外の要素も含めて算出する方法を適用し、スクリュー圧縮機の主要部品について評価した結果、再生において、プロセスを考慮せず、材料のみを考慮した場合に比べてCO2排出量が約2倍になる一方、新品製造よりCO2排出量が20%削減できることが確認されました。また、性能テストの効率化が環境負荷低減に有効であることも明らかになりました。
(4)多様なステークホルダーの共存に向けたルール形成
日立製作所の星野 攻、村里 有紀、産総研の神垣 幸志氏からは、ルール形成に関する取り組みについて報告しました。まず星野は、ルール形成戦略の概要を次のように述べました。
サーキュラーエコノミーのルール形成は国際的に進展しており、各国・地域の動向によっては、特定の地域や産業にとって不利なルールが形成されるおそれがあります。そこで私たちは、「攻め」と「守り」のルール形成戦略を進めてきました。「守り」は、先行する欧州の動向を踏まえて事業に反映すること、「攻め」は、自国、他国ともに不利益にならないことを目的とした日本発のルールや標準を基盤に、標準化において主体的な役割を果たすことです。
まずグローバルなルール形成動向を俯瞰し、欧州、日本、米国、国際標準化の場を整理しました。その分析から、欧州ではDPPなど動脈側の情報開示とデータスペース整備が先行し、関連するデータ連携のあり方に影響を与える可能性がある一方、日本には静脈データ連携や電子部品のCDD(Common Data Dictionary:オンライン共通電子辞書)など、国際標準化に寄与し得る領域があると捉えました。そこで、サイバーとフィジカルをつなぎ、サーキュラーエコノミーを活性化する「価値の見える化」の標準化に向けて仲間づくりなどの活動を進めてきました。
具体的には2つの「価値の見える化」に取り組みました。順にご説明します。
村里は、1つ目の価値の見える化について次のように説明しました。
既存のサーキュラーエコノミー指標の多くは環境面に重点が置かれていますが、企業が収益性を失えば事業継続も循環経済への移行も停滞してしまいます。そこで、経済合理性に着目した指標としてCVP(Circular Value-Added Productivity: CE付加価値の生産性)を考案しました。CVPは、サーキュラーエコノミー事業による付加価値を循環に要したコストで割ることで、循環の効率性を評価するものです。これにより、経済と環境のバランスを考慮した評価が可能になります。
その実用化に向けて財務データを考慮した式を具体化し、複数企業が連携するバリューネットワークにも適用できるように拡張しました。その際、内部取引によるコストの重複計上を避けるため、ネットワーク内で交換された重複分を除外する方針としました。
磁石再生事業における分解・破砕・選別事業者を対象に試算した結果、高度選別設備の導入による効率化・高品質化がCVPの向上として表れることが確認できました。これにより実データを用いて、設備投資の効果を適切に反映できることが示されました。
続いて神垣氏が、2つ目の価値の見える化として残存価値を可視化するためのグレーディングについて次のように説明しました。
私たちはプラスチック再生の現場を調査し、どのデータが、どのような意味と文脈で価値の受け渡しを支えているのかを分析しました。その結果、需要側の用途情報が供給側の回収・選別現場に届いていないこと、製品の品質や由来情報が静脈側に十分に伝わっていないことが明らかになりました。
そこで3つの要件を整理しました。第一は基本取引で、需要側の用途情報を示すことで市場取引の選定軸を明確にし、取引成立率と価格妥当性を高めます。第二は動静脈情報連携とトレーサビリティで、品質や信頼の根拠情報を示し、高グレード需要の拡大と不確実性コストの低減を図ります。第三は相互運用性で、既存国際規格を参照しながら、異業種・異材料間でも残存価値を一貫した意味で解釈できる状態をめざします。これらにより需給マッチングを加速し、静脈市場の厚みが増すと想定しています。
パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子
フォーラム後半にはパネルディスカッションが行われ、経済産業省 資源循環経済課 課長の三牧 純一郎氏、信州大学 社会基盤研究所 特任教授の市川 芳明氏、東海大学 政治経済学部 教授の細田 衛士氏、三菱UFJリサーチコンサルティング ユニット長の清水 孝太郎氏、日立製作所 GX事業開発本部の新開 裕子、日立-産総研CEラボの増井 慶次郎副ラボ長がパネリストとして登壇し、AIST Solutions CTOオフィス Vice CTOの宮本 健一氏と、日立製作所 研究開発グループ 生産・モノづくりイノベーションセンタ センタ長の谷口 伸一をファシリテーターとして、2つの論点で議論が交わされました。
(論点1)CE社会の実現に向けたステークホルダーの連携と国際競争力の強化
宮本氏:まず1つ目の論点について、自己紹介も兼ねて皆さまのお考えを伺います。
三牧氏:これまで産業政策に多く関わってきましたが、富山県庁出向時には、アルミ産業やリサイクル研究施設の誘致にも携わりました。現在は、企業にとってのメリットを意識しながら、サーキュラーエコノミーの推進に取り組んでいます。
論点1について言うと、サーキュラーパートナーズ(CPs)という形で企業だけでなく自治体や研究機関の参加も募り、ネットワークづくりを進めています。国際競争力については定義の仕方に幅がありますが、中国をはじめ各国が静脈産業への投資を進め、官民一体で産業育成を進めています。日本でも官民連携の具体化が重要であり、CPsも単なるネットワークではなく、官民で実効的な議論を重ねる場にしていくことが大切だと考えています。
市川先生:ISO/TC323のWG2座長としてISO59010の発行まで関わり、昨年からは再始動したWGで2つの規格に関する議論を同時に進めています。CPsでは国際連携標準化WGの主査も務めています。
論点1について、主要なステークホルダーは最終消費者、政府、企業の三者ですが、経済合理性の観点から、この三者の連携は簡単ではありません。各主体にとっての合理性をどう持たせるかが鍵です。国際競争力には、サーキュラーエコノミー社会における国としての競争力、個別企業の競争力という2つの側面があります。政府と企業の役割分担、政府間交渉による国と国との役割分担も重要であると考えています。
細田先生:私は1985年に英国留学から帰国した際、日本の急速な開発の進み方に強い違和感を覚え、数理経済学を廃棄物・リサイクルの分析に応用する研究に取り組むようになりました。
理論だけではなく現場も重視して多くを視察してきた経験から言うと、中村先生がおっしゃったようにサーキュラーエコノミーの基礎は地域にあります。動脈経済では、消費者が対価を支払うことで価値が成立します。しかし静脈では法律などで支払いを強制しないと価値が成立しにくい。そこで重要になるのが制度的インフラです。日本の強みは競争力ではなく共創力、すなわち協力して価値を生み出す力にあります。水平的共創、垂直的共創、そして両者を組み合わせたハイブリッド共創を通じ、制度的インフラを整え、支払意思を顕在化させることが競争力につながると考えています。
清水氏:私は、まだ「循環経済」という言葉が一般的でなかった頃に細田先生や中村先生と資源効率の勉強会を始め、その後、産業界の意見を反映した循環経済の規格づくりの場として循環経済協会を立ち上げました。市川先生とともにISO/TC323でISO59010、そしてISO59011のバリューネットワークに関する規格づくりにも関わっています。
競争力を「市場を多く取れる力」と考えるなら、欧州には先進国から中古品需要の高い地域までを内包する大きな市場があります。一方、日本は国内市場が均質で、そうした多様な需要を国内だけでは抱えにくい。今後は海外を含め、中古品から素材回収まで、製品のライフサイクルに応じた多層的な市場をどう取るかが重要です。そのためには複数企業を束ねる「メタ戦略」が必要です。資本関係が異なっても、サーキュラーエコノミーの看板の下で連結的に機能する関係性をつくることが求められます。
新開:お客さまのサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルへの移行を、日立のデジタルとフィジカルのソリューションで支援しています。サーキュラーエコノミーは一社では成立しません。素材調達、製造、使用、回収、再資源化まで価値の流れ全体をつなぐにはデータ連携が不可欠です。再生材を使いたくても品質・量・価格が安定しない、企業間データも整っていない。こうした課題に対し、データ連携が解決の糸口になると考えています。
宮本氏:皆さんが動静脈連携の重要性を指摘されていますが、その含意には違いもあるようですね。
細田先生:フィールドワークの経験から言うと、いきなり一般解を求めるのではなく、特殊解を積み上げ、そこから共通項を見出すべきです。それは地域ごとにローカリティが異なるためです。「水平的共創」の例としては、一般廃棄物や家電回収の共同配送・共同運行があります。静脈ロジスティクスのコスト比率は高く、ここを下げることが重要です。「垂直的共創」の例としては、瀬戸内の資源循環プロジェクトのように、原料、容器包装、流通、回収、油化、精製までをつなぐ循環があります。
国際競争力を考えるなら、それぞれの点を線に、線を面にしなければなりません。そのために必要なのが「ハイブリッド共創」です。水平と垂直を組み合わせ、全国レベルへと拡張する。この仕組みは制度的インフラの形成にも効き、支払意思を生み、付加価値と競争力につながります。
清水氏:自動車を例にとると、日本ではリサイクル法により解体・シュレッダー処理が前提ですが、実際には多くの中古車が海外で需要を持っています。つまり、新品、中古、さらに素材としての利用まで、複数の市場が存在しているのに、日本のサプライチェーンはその全部を取り込めていません。
重要なのは、需要のグラデーションに応じたマーケットを物流網・販売網を駆使して構築することです。途上国向けと先進国向けで商品も物流も変える企業のように、異なるマーケットを束ねる戦略が求められます。その際、人工物由来の中古品は希少資源でもあります。それらをいかに効率よく回すか、すなわち物流効率化が鍵になります。アパレルでも、データ連携が弱いと余剰生産と廃棄が生じます。動静脈連携は物流網と情報網の両面で必要です。
新開:サーキュラーエコノミーのバリューチェーン全体をつなぐには、データの連携が必須です。再生材の品質、由来、量、価格、物流情報などがつながらないと、事業として成り立ちません。EUのDPPやバッテリーパスポートは参考になりますが、重要なのはデータ項目の多さではなく、必要な情報が次のプレイヤーに途切れず伝わる設計であることです。日本の産業構造や動静脈分離の特性を踏まえた情報連携の構想が必要です。
宮本:三牧課長、国としてはどのように見ておられますか。
三牧氏:サーキュラーエコノミーは地域活性化とともに、経済安全保障の観点からも重要です。資源の囲い込みが進む中で、国内循環を支える静脈側の事業者を育てる必要があります。
データは企業にとって武器ですが、サーキュラーエコノミーを進めるには、他の工程にとって価値のあるデータを取り、共有する発想が必要です。そこには企業間のより深い信頼関係が求められます。
また、安価なバージン材や海外再生材に対して国内供給はまだ弱いため、需要をつくりつつ、供給側投資も促す必要があります。まずは民間と連携してベストプラクティスをつくることが重要だと感じています。
宮本氏:日立-産総研CEラボ 副ラボ長の増井 慶次郎さん、皆さんのコメントとラボの研究との関連についてどう思われますか。
増井氏:動静脈連携にはモノの流れと情報の流れの両方があります。バリューネットワークで利益が生まれても、一部に偏ると持続しません。利益再配分の設計には、データ取得と分析が不可欠です。その意味で、ライフサイクルシミュレーションや静脈産業のデジタル化が重要です。また、使用済製品由来の材料には品質のばらつきがあり、今後は出口だけでなく、入口側でも多品種少量対応が求められる可能性があります。
市川先生:BtoB(Business to Business)連携は非常に重要で、特に最終製品メーカーがどのようなリサイクル材を求めているかがリサイクラーに伝わらないのは大きな問題であるため、データ連携が不可欠です。
ただ、それだけでは不十分で、最終的には消費者が受け入れるかどうかが問われます。リサイクルしやすい設計や再生材を使った製品が優れていても、売れなければ回りません。重要なのは消費者にとっての価値をどう高めるかです。
古い着物の来歴を二次元コードで可視化したところ、米国で飛ぶように売れたという事例があります。中古品の持つ価値が訴求できれば消費者の経済合理性を動かせるということです。BtoBだけでなく、最終消費者まで含めてサーキュラーエコノミーを設計する必要があります。
細田先生:市川先生のお話に近い事例として、流通と連携しながら古着をリユースしている企業があります。古着は一点物であり、ヒストリーやストーリーを帯びることで価値が生まれます。
一方で、中古・リサイクルのグラデーション市場をつくるには制度面の課題もあります。法律が細かすぎると時代の変化に対応できません。自動車リサイクル法は、中古輸出を事実上後押ししている面もあり、ブラックマーケットの問題もある。制度的インフラと現実が噛み合わなければ、付加価値も競争力も生まれません。
宮本氏:中村先生、今の議論に対してご意見があればお聞かせください。
中村先生:消費者レベルでモチベーションを上げることは極めて重要です。日本にはよい事例が数多くありますから、それらを類型化し、社会に示していく必要があります。
ただし忘れてはならないのは、工業製品も食料も大量生産で成り立っているということです。大量生産を前提としたとき、二次資源をどう原料として組み込むのかが重要になります。その上で、制度の見直し、特に物流や廃棄物区分のあり方など、柔軟化を検討すべき部分もあるのではないかと思います。
(論点2) 経済性と環境性を両立させる施策のあり方
谷口:ここからは日立製作所の谷口が進行します。まず皆さんから2つめの論点についてのご意見をお願いします。
三牧氏:3R(Reuse、Reduce、Recycle)は国内中心の取り組みでしたが、現在のサーキュラーエコノミーは国際的な資源・環境問題とも結びつき、企業のモチベーションは高まっています。
ただ、再生材利用の面では、国内再生材は依然としてバージン材や海外再生材に対し経済的に厳しい。そこで供給面だけでなく需要面の施策が重要になります。短期的には価格差への支援も必要だと思いますが、中長期的には分別回収の効率化、再生材利用を前提とした回収の仕組み、そして消費者理解の促進が重要です。若い世代の関心は高く、そこを日本の強みに変えていく必要があります。
市川先生:環境と経済の両立については気候変動対策が先行事例にできます。白熱電球から蛍光灯、さらにLEDへと移行したのは、政策によって市場のルールが変わったからです。トップランナー制度も同じで、一定水準以下の製品を市場から退場させることで省エネルギーを進めてきました。
サーキュラーエコノミーも同様に、一定の市場規模に達するまでは政策のエンジンが必要です。サーキュラリティの高い製品を判定する基準や認証制度の整備も重要でしょう。
細田先生:今の生活水準は大量生産・大量消費で成り立っている一方で、無軌道な大量廃棄が外部不経済や競争力の喪失の問題を生み出しています。それを内部化するのがサーキュラーエコノミーですが、実現には法律や条例といったハードローだけでなく、社会規範としてのソフトローが必要です。現在、一般廃棄物は大きく減少しています。食品ロスやレジ袋の使用も減っています。これは単なる価格効果だけではなく、社会規範の変化が作用している面が大きいでしょう。
価値訴求の例としては、再生紙や水平リサイクルの普及があります。ある程度まで広がれば、スケールメリットで価格も下がります。また、ハイブリッド車のようにイメージが環境価値につながっている例もあります。ストーリーやヒストリーと環境価値を組み合わせて訴求することが重要です。
清水氏:サーキュラーエコノミー自体に反対する人は少ないと思いますが、問題はバトンタッチのたびに受け手にメリットがあるかどうかです。製造、販売、使用、回収、再資源化のどこかで「儲からないハズレくじ」があると流れが止まってしまいます。特に廃棄物処理や回収の段階はそうなりやすいと言えます。
したがって、それぞれの段階で価値をどうつくるかが課題です。税制や制度によるものもあれば、デザインや物語、人とのつながりのような非金銭的価値もあるでしょう。海外では、修理や解体が功徳やコミュニティ参加の価値になっている例もあります。
また、リサイクルでは「分ける」ことが重要でしたが、サーキュラーエコノミーではその前に「戻す」ことが重要です。家電や自動車のように戻る仕組みのあるもの以外は、戻す動機づけが弱いため、リースのような仕組みや回収を促す制度設計が必要です。
新開:事業の観点から見ると、サーキュラーエコノミーの価値は収益だけでなく、「リスクやコストを減らす」ことにもあります。再生材利用や技術開発でコストが下がる可能性がある一方、地政学リスクが高まる中では、資源レジリエンスの向上は事業継続上の価値になります。
事業側としては、解体・再生しやすい製品設計、回収量を増やして規模の経済を成立させる回収の仕組み、そしてデジタルを活用した再生資源の由来・量・流れの可視化が重要です。その上で政策側、研究開発側、事業側が最初の段階から連携して議論することが重要だと感じました。
市川先生:国の支援としては、サーキュラリティの高い製品へのエコポイントのような制度が考えられます。その前提として、厳格な判定基準と第三者認証が必要です。
加えて、再利用しにくい製品や再生材の利用が少ない製品の流通を制限する仕組みも必要でしょう。二次材料の品質に関する規格は世界的にも未整備ですから、ここを標準化することは大きな価値があります。
さらに、将来的にはサーキュラリティの高い企業が投資家から評価され、融資を受けやすくなる仕組みも重要です。気候分野で起きたことが、サーキュラーエコノミーでも起きるべきです。
新開:サーキュラーエコノミーのプロジェクトなどに投資家が安心してお金を出せる環境づくりは重要です。現状では脱炭素案件に比べ、この分野への資金供給は限られています。その背景には、サーキュラーエコノミーへの経済価値をどう評価するのかという共通の物差しが、まだ十分に整っていないことがあります。投資家が案件の価値を判断しやすくなれば、企業の設備投資にとっても追い風となるでしょう。また、投資家が安心して判断できる環境は、企業にとっても設備投資しやすい環境です。市場が成熟するまでの間は、需要創出やグリーン調達などの政策インセンティブも有効だと思います。
細田先生:制度や規格は重要ですが、欧州型の普遍的ルールをそのまま当てはめることには慎重であるべきです。ライフスタイルも社会構造も異なります。金融ルールでも、外部からのルールが必ずしも地域の価値を守れない例がありました。実際に社会を支えるには、自治体や地域金融機関、市民の自主的行動といったソフトローの力も重要だと思います。
三牧氏:私自身、省エネ政策に携わった経験から、ハードローが効く部分とソフトローが効く部分を見極めながら、両方を組み合わせていく必要があると感じています。また、リペアや新たなサーキュラーデザインのような領域では、メーカーと新しい担い手とのWin-Winの関係の構築が課題です。そうした関係が、消費者との継続的コミュニケーションや回収強化にもつながる可能性があります。
清水氏:サーキュラーエコノミーの実現には、企業や個人が局所最適に動いている部分を、制度や価値観の共有で補正していく必要があります。循環の可視化や習慣化を促すデザイン、いわゆる「啓発」も必要かもしれません。こうしたことは学問的にもまだ十分体系化されておらず、企業や政策、教育が一緒になって進める余地が大きいと思います。
増井氏:経済性と環境性を両立するには、ある程度の規模感が必要であり、大量生産・大量消費自体というよりは大量廃棄が問題だという点を改めて認識しました。
一方で、製品の再利用や部品の再使用では個別対応も必要になります。そこで重要なのが耐久性と信頼性です。日本の製品はこの点に強みがあり、少なくとも消費者が使い終えるまではしっかり持ち、さらに次のユーザーへバトンタッチできる品質を備えた製品づくりがベースになると思いました。
宮本氏:本日の振り返りとして、論点1では、いきなり一般解を求めるのではなく、特殊解を積み上げること、水平・垂直・ハイブリッドの連携、海外も含めた市場の捉え方、データ連携の重要性、そしてBtoBだけでなく消費者まで含めた経済合理性の設計が重要だという議論がありました。
谷口:論点2では、政策をエンジンとして一定の流れをつくること、基準や指標を整備すること、そして消費者の理解や価値訴求を通じて行動変容を促すこと、この両輪が経済性と環境性の両立に必要だという議論でした。
閉会挨拶

閉会挨拶では、産業技術総合研究所 副理事長 兼 研究開発責任者の小原 春彦氏がフォーラムの議論を振り返り、サーキュラーエコノミーの社会実装に向けた多くの示唆が得られたと述べました。本ラボでの研究開発は年を追うごとに具体性と解像度が高まっていると評価し、外部からの受賞や国際会議での評価にも触れながら研究の進展に期待を示した上で、「産総研としても企業・大学・公的機関とともに成長しながら、日本にイノベーションを起こしていきたい」と結びました。
また、日立製作所 研究開発グループ Sustainability Innovation R&D Managing Directorの杉村 和之は、ラボ設立から3年4か月の活動を振り返り、「ありたき将来」として掲げる循環型社会の実現に向けて、実装を意識した取り組みが進展していることを紹介しました。そして、パネルディスカッションでは、日本における関係性重視の特性を生かした連携の可能性、価値の見える化とデータ連携の重要性、経済合理性を支えるルール設計の必要性、資源レジリエンスや安全保障を含む多面的な価値の捉え方などの示唆が得られたと述べ、「本フォーラムを通じて得られた意見を今後のラボ活動の改善につなげ、持続可能な循環経済社会の実現に向けて新たな体制で研究開発を推進していきます」と今後の方針を示し、フォーラムを締めくくりました。




