ガス流量5 L/minで透過効率56%を確認し、検査の安定運用への貢献めざす
日立および日立ハイテクは、検査センターや大規模病院で求められる、ホルモンや薬剤など血中濃度が低い低分子成分の安定した測定と分析装置の安定運用の両立をめざし、臨床用質量分析向けの「8-4重極イオンガイド*1」を開発しました。
血液などの液体試料を測る質量分析では、装置の入口から導入できるイオン量が感度を左右します。入口を広げるとイオンを多く取り込めますが、強い気流の影響でイオンの軌道が乱れやすくイオンの一部が装置内部に届かないことに加え、中性分子*2や帯電液滴*3が入り込みやすいことが課題でした。本技術は電場でイオンを気流から分け、気流の影響を受けにくい位置で集束させることで、分析対象のイオンを効率よく装置内部へ導入することが可能です。検証の結果、ガス流量5 L/minでも透過効率*4 56%を確認し、帯電液滴とイオンの分離ができることを実証しました。また、1 pg/mL*5の低濃度のテストステロン*6を検出できることを確認しました。これにより、感度低下を抑制し、検査の再測定や装置停止につながる運用上のリスク低減に貢献します。
なお、本成果の一部は2026年5月31日~6月4日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されるThe 74th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topicsで発表予定です。

図1 8-4重極イオンガイドの概要
*1 8-4重極イオンガイド: 八重極領域と四重極領域で構成し、電場でイオンを導入・輸送する部位
*2 中性分子: 電荷を持たない分子
*3 帯電液滴: 電荷を帯びた液体の微小な液滴
*4 透過効率: 入口に入ったイオンのうち、次の真空領域へつながる開口部を通過した割合
*5 pg(ピコグラム): 質量の単位。1 pgは1 gの1兆分の1
*6 テストステロン: ホルモンの一種
背景および課題
ホルモンや薬剤などの低分子成分は、患者の状態把握や治療方針の判断に重要です。質量分析は、測定対象をイオン化し、質量ごとに分けて計測することで、低分子成分を高い選択性で検出できます。
一方、血液などの液体試料を測る質量分析では、低濃度成分を確実に測るため、装置の入口を広げてイオンを多く取り込むことが検討されています。しかし、入口を広げると強い気流が発生し、その影響でイオンの軌道が乱れやすく、装置内部へ届くイオン量が減ることが課題でした。加えて、汚染の原因となる中性分子や帯電液滴などが装置内部へ入りやすくなり、装置内部の汚れによる感度低下につながることも課題でした。
開発した技術の特長
そこで日立および日立ハイテクは、強い気流の影響を受けにくく、汚染の侵入を抑えながらイオンを装置内部へ導入できる「8-4重極イオンガイド」を開発しました。技術の特長は以下の通りです。
1. 強い気流の中でもイオンを取り込みやすくする電場制御
八重極領域で電場を用い、イオンを気流から分けて次の領域へ導きます。これにより、強い気流の影響でイオンが散って失われることを抑え、入口を大きくして気流が強くなる条件でも分析対象のイオンを装置内部へ導入しやすくなります。
2. イオンの流れを乱しにくい八重極―四重極の接続構造
八重極領域*7と四重極領域*8の間に、電極形状が連続的に変化する接続領域を設けました。これにより、イオンを滑らかに受け渡し、輸送ロスを抑えます。領域の切り替わりでイオンの軌道が乱れることを抑え、安定した導入を支えます。
3. 気流から離れた位置でイオンを集め、装置内部へ導入する配置
四重極領域を気流から離れた位置に配置し、電場でイオンを集束させて装置内部へ導入します。これにより、中性分子や帯電液滴が装置内部へ入り込みにくくなり、汚染の侵入を抑えることにつながります。感度低下の要因を減らし、長期運用での安定した測定を支えます。

図2 8-4重極イオンガイドの構造
*7 八重極領域: 八重極の電極で電場を作り、イオンを気流から分けて次の領域へ導く領域
*8 四重極領域: 四重極の電極で電場を作り、イオンを集束させて装置内部へ導入する領域
確認した効果
ガス流量5 L/min条件で、イオンガイド入口のイオン電流1.8 nAに対し、装置内部の次の真空領域へつながる開口部(アパーチャ*9、内径2.0 mm)を通過したイオン電流1.0 nAを確認し、透過効率56%を得ました*10。この結果は、強い気流の条件でも分析対象のイオンを装置内部へ効率よく導入できることを示します。
また、1 pg/mLの低濃度のテストステロンを検出できることを確認しました。さらに、帯電液滴とイオンの分離を実証し、真空内部への汚染侵入抑制を通じて、長期にわたる高感度維持に資することを示しました。
*9 アパーチャ: 装置内部の次の真空領域へつながる開口部
*10 試料:トリブチルアミン4 µM、アセトニトリル、流量5 µL/min
今後の展望
今後、日立および日立ハイテクは、医療機関・研究機関・パートナー企業と連携し、今回開発した技術を適用した装置の運用データをLumadaで解析することで、臨床運用を想定した長期安定性評価(感度の変化、再測定の発生状況など)を推進します。あわせて、検査現場での安定運用に資する設計指針を拡充し、体外診断の信頼性向上に貢献します。日立は、体外診断の信頼性と安定運用を支える技術開発を通じて、医療の質向上と人々のウェルビーイングに貢献していきます。
照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ

