ソフトウェア工学分野の著名な国際会議 ASE 2025にて2件発表

日立は、自動車・物流分野の制御ソフトウェアを対象に、制御工学*1とAI(Artificial Intelligence)、ソフトウェア工学*2を融合する「Physical AI*3」の実現に向けた技術を開発しました。自動車分野では、コントローラ実機固有のAPI(Application Programming Interface) *4情報を生成AIに取り込むことで、従来困難だった実機向けテストスクリプト*5の自動生成を実現し、統合テスト工数を43%削減*6しました。物流分野では、現場の環境や作業の変動要素を事前に分析し、アーキテクチャ設計*7に反映することで、自律ロボット制御ソフトウェアの再利用性と現場作業効率を向上させました。これらの技術は、制御ソフトウェア開発の効率化と現場作業者の負荷軽減を通じて、持続可能な社会インフラの実現に貢献します。
なお、これら2件の研究成果は、ソフトウェア工学分野で著名な国際会議ASE 2025*8(2025年9月採択、11月発表)に同時採択されました。

*1 制御工学: 機械やシステムが目的どおりに正しく、安全かつ安定して動作するように設計・運用するための学問。
*2 ソフトウェア工学: コンピュータ上で動作するプログラム(=ソフトウェア)を計画的かつ効率的に開発するための体系的な技術と知識体系。
*3 Physical AI: AIの能力を現実世界の「もの」や「動き」と結びつけ、AIがセンサやアクチュエータなどを通じて、実際の世界において「見る」「動く」などの作業を行えるようにするための技術。
*4 API(Application Programming Interface): 異なるソフトウェアやサービス同士が情報のやり取りや機能の利用を円滑に行うために設計された共通の約束事や仕組み。
*5 テストスクリプト: ソフトウェアやシステムが正しく動いているかどうかを自動的に確認するために作成された一連の操作手順や検証内容を記述したプログラム。
*6 パイロットプロジェクトにおける評価結果。値は手動実行に要する工数との比較。
*7 アーキテクチャ設計: ソフトウェアやシステム全体を、安全で効率的に動作させるために、各部分の役割やつながり方を大まかな構造として計画・設計する技術的なプロセス。
*8 40th IEEE/ACM International Conference on Automated Software Engineering. https://conf.researchr.org/home/ase-2025 ソフトウェアの開発や設計を自動化する技術や研究成果について、世界中の研究者や技術者が発表・議論するために開催される、権威ある国際的な学術会議。IT分野における国際会議ランキング(ICORE)にて最上位のA* RANK(上位7.65%)に分類。

背景および課題

社会インフラや産業現場では、デジタル化や自動化の進展により、システムの複雑化と多様化が急速に進んでいます。多様な機器や環境、業務プロセスに対応するため、現場ごとに異なる仕様や運用条件への柔軟な対応が求められています。また、AIや自律システムの導入が進む中で、現場のノウハウや実機固有の情報をソフトウェアに的確に反映し、信頼性の高い自動化を実現することが、課題となっています。こうした背景から、日立は、現場の多様性や変動性に柔軟かつ効率的に対応できる新たな技術の開発を進めています。

課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長

今回、日立は、現場の多様な課題に対応するため、制御工学とAI・ソフトウェア工学を融合した「Physical AI」の実現に向けた技術を開発しました。

事例1:自動車分野における実機API情報を活用したAIテスト自動生成技術*9
日立とAstemo株式会社にて、車載システム向けテスト生成AI技術を開発しました。コントローラ実機固有のAPI情報や現場ノウハウを生成AI(大規模言語モデル+検索拡張生成)に取り込むことで、自然言語で記述されたテストケース仕様から、現場知識を反映した実機向け統合テストスクリプトを自動生成します。これにより、従来、多大な工数を要していたテストスクリプト作成を効率化し、マルチコアECU(Electronic Control Unit) 統合テストに関するパイロットプロジェクトにおいて、43%の工数削減を実現しました。現場ごとのハードウェア構成にも柔軟に対応でき、信頼性の高いAI活用を可能にします。

画像: 図1 提案手法の概要と効果

図1 提案手法の概要と効果

*9 https://conf.researchr.org/details/ase-2025/ase-2025-industry-showcase/60/Acceleration-of-Automotive-Software-Development-by-Retrieval-Augmented-Integration-Te

事例2:物流分野における変動性管理による自律ロボット制御ソフトウェアの再利用性向上技術*10
日立は、工場や物流センターなどの現場で発生する製品や環境、作業内容の多様な変動要素を事前に分析し、機能モデルとして整理することで、ソフトウェア上で柔軟に管理できる変動性管理技術を開発しました。ロボット制御ソフトウェアをモジュール化し、ROS(Robot Operating System)*11上で動作するノードとして実装することで、新商品やピッキング/プレース条件の変更にも迅速に対応でき、ソフトウェアの再利用性を向上します。現場エンジニアやロボットオペレータへのインタビューや実証実験を通じて、システム設定作業の効率向上を確認しました。

画像: 図2 物流現場向け自律ロボットの可変性モデル

図2 物流現場向け自律ロボットの可変性モデル

*10 https://conf.researchr.org/details/ase-2025/ase-2025-journal-first-track/19/Managing-the-variability-of-a-logistics-robotic-system
*11 ROS(Robot Operating System): ロボットの動作や制御、センサー情報の管理などを効率的に行うための、世界中で広く使われているロボット向けの共通ソフトウェア基盤。

今後の展望

本技術は、制御ソフトウェア開発の効率化と現場作業者の負荷軽減を通じて、持続可能な社会インフラの実現に寄与します。現場対応力の向上や省力化は、労働人口減少や多様化する社会ニーズへの対応にも資するものです。日立は今後も、制御工学とAIとソフトウェア工学を融合した「Physical AI」の実現に向けた技術を、自動車・物流分野をはじめとするさまざまな社会インフラへ展開し、社会課題の解決と新たな価値創出に貢献していきます。

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

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