水素利用拡大時に課題となる水素供給と需要の地理的ミスマッチ解消と低コスト安定供給を実現する既存ガスグリッドを活用した水素輸送システムを開発しています。

既存ガスグリッドを活用した水素輸送システムの概要
カーボンニュートラル(CN)実現に向け、水素が次世代のエネルギーとして注目されています。ガスの低炭素化をめざし、水素を天然ガスに混合して利用する取り組みが進められています。CN社会への移行期には天然ガス利用者と水素利用者が並存する状況が想定されています。各需要家のニーズに応じて適切なガスを柔軟に供給できるシステムの開発が進められており、このシステムは異なるエネルギー需要への対応を通じて、CN社会への円滑な移行を促進すると期待されています。
天然ガス、混合ガス、水素を利用する需要家が同一のパイプラインから各需要家に適したガス濃度の供給のためには、適切なガス濃度に制御するためのガス分離技術が必要になります。また、従来の天然ガスのみを流通させるガス網では圧力管理のみで管理可能でしたが、混合ガス網ではガスの圧力と水素濃度の双方を管理する必要があります。また、水素供給と需要の地理的ミスマッチや、返送ガスによる濃度変動の影響を克服することも重要な課題です。これらの課題を解決し、既存インフラを活用した低コストかつ効率的な水素輸送を可能にする技術が求められています。
日立は、既存のガスグリッドを活用した水素輸送システムを開発しています。このシステムは、「ガス分離技術」と「ガス濃度可視化技術」の2つで構成されています。ガス分離技術には、高選択性・高透過性を持つ分離膜を採用し、需要家ごとに異なるガス濃度を柔軟に制御します。例えば、化学プラントには99%の水素を供給し、発電所には98%の天然ガスを供給します。さらに、混合ガス利用者には濃度変動が抑えられた安定的なガス供給を実現します。一方、ガス濃度可視化技術では、局所的および広域的な濃度分布をリアルタイムで把握し、返送ガスによる濃度変動を抑制します。これらの技術によって、ガス輸送ネットワーク全体の効率性向上や低コストで安定的な水素輸送が可能となり、将来の需要変化にも柔軟に対応可能です。
日立は、プラント制御技術を活かし、分離膜メーカーと連携して膜分離技術の開発や濃度可視化技術の研究を進めています。これらの取り組みを通じて、水素輸送システムの実用化を進め、既存インフラを活用した低コストかつ効率的な水素供給をめざします。