株式会社大林組 設計本部 プロジェクト設計部 担当部長
馬木直子氏
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株式会社日立製作所 東京社会イノベーション協創センタ デザイナー
熊谷健太

人が出会い、集まる場所としてつくられた協創棟。カフェライブラリーでの対話に続き、設計・デザインでタッグを組んだ大林組の馬木直子さんと日立製作所の熊谷健太の案内で、協創棟の空間設計に込められた思いをひもといていく(文中敬称略)。

どこにいても外を感じる空間

熊谷:協創棟の一番の特徴は、気積(空間ボリューム)が大きいことなんです。天井も、ものすごく高くて、低くても3m、ほとんどの場所が4m以上あります。さらにスペースを区切っていないので、ひとつひとつの空間の体積がすごく大きいんです。ここに1年いて他の建物に移ったら、天井は低いし狭いなと感じると思いますよ。研究者からもその点はとても評判がいいです。この大きな気積にはものすごく価値があります。僕は、ここが研究所じゃなくなったら、美術館に転用できると言っているんです(笑)。

馬木:協創棟の建設にあわせて、既存建築物、小平記念館のエントランスと通路を改修しました。通路の改修では、天井も低いんですが、協創棟に入るとバンと開けますから、あえてトンネルを通り抜けるように低いままでいいんじゃないかと考えました。日常を離れて自由な発想をするために気持ちを切り替えるアプローチになっています。

―1階の中央へ進むと大階段が現れる。階段を上がった2階には、アイデアを共に考え、検証しながら開発を行う「プロジェクトベース」「プロジェクトルーム」などが配置され、パートナーと日立製作所との協創の拠点となる。フロア中央部は、2階から最上階の4階までの広い吹き抜け階段になっており、天窓から自然光が差し込む。

熊谷:「協創の森パートナープログラム」に参加していただいた方は、2階のフロアまで自由に入って仕事をしていただけます。3階、4階は、基本的には社員しか入れない立ち入り制限フロアで、1階は正門を通った外部の方も含めて、誰でも自由に使えるフロアです。そして、2階はその中間に当たるセキュリティレベルに設定されています。

馬木:設計を進める中で、どこまで外部の人を入れるか、どう協創をしていくかを検討するなかで、新しいセキュリティレベルを設定されたんでしたよね。

熊谷:吹き抜けは、最初から馬木さんの提案にありました。自然光を採り入れるのに加えて、この縦穴を通して建物全体の自然換気をしています。ここは、いわば建物の肺なんです。

馬木:建物のどこにいても外を感じるというのがコンセプトの一つですし、これだけの森の中にあるんですから、自然換気した方が気持ちいいじゃないですか。屋上にセンサーを設置してあって、気温や湿度が換気に適していると、高窓が開くと同時に各フロアに設置された換気を促すランプが点くんです。窓際に行って通風口を開けてくださいという合図です。これが自動で開かないところがミソで、エコの心を醸成するという思いを込めています。通風口も、よくあるレバーをスライドさせて開閉するものではなく、あえて、「開ける」という動作をしてもらうものにしています。両サイドの窓際から外気を採り入れるんですが、間仕切りがないのでフロア全体の空気が抜けるんですね。パッシブな環境制御、つまり、高性能な機械を入れるのではなくて、自然の力を採り入れることをテーマとしています。

画像: 窓際に設置された通風口

窓際に設置された通風口

熊谷:以前の建物の基礎を活用しているので、地下空間が残っているんです。地下は割と温度が安定していますので、その地中熱も空調に使っています。

オープンな階段が各フロアをつなぐ

―セキュリティゲートを抜けて、大階段を上がる。ゲートがあるとはいえ、吹き抜けなので上部のフロアを行く人や階段を上り下りする人々の動きは2階からも見え、協創スペースと研究スペースの間の絶妙な一体感を感じさせてくれる。この吹き抜けと大階段は、単なる通路ではなく、人が出会い、集まるスペースとして設計されているのだ。最上階である4階は、これまでも多くの外部組織との協創を手がけてきた「東京社会イノベーション協創センタ」が入る。

画像: 協創棟の2階から4階に続く中央階段(撮影:吉村昌也)

協創棟の2階から4階に続く中央階段(撮影:吉村昌也)

馬木:設計者としては、みんながこの階段を使ってくれたらうれしいなという思いでつくりました。

熊谷:この階段は結構使っていますよ。

馬木:この研究フロアを見た人はみんな、天井に興味津々になりますね。実は天井の化粧板を張っていない表し天井なんです。

熊谷:表しになった梁に空調とケーブルと照明を取り付けていて、照明もスラブ(上階の床面)に反射させた間接照明だけで執務作業に必要な照度を確保しています。

画像: オープンな階段が各フロアをつなぐ

馬木:この空調ダクトを横須賀にある美術館みたいにしたいというご要望でしたね。それもお金をかけないでやるのが大変で、ダクトをアルミ箔で裏打ちされた紙で巻きました。いろんなものを試したのですが、紙は元に戻ろうとする力があるので、一番きれいに丸くなるんです。

熊谷:家具もオーダーで作ってもらったものがすごく多いんです。4階の僕らのフロアは全体が完全フリーアドレスでけっこう自由なレイアウト。3階は情報系の研究者のフロアで、全員が大きなディスプレイを使用していますので、自席を設けること、ひとりひとりのスペースをできるだけ広くとることが求められました。フロア内に散りばめてあるミーティングスペースもほとんどがオーダー家具です。

ユースケースから発想する協創

―再び1階に戻り、屋外に見えるこもれびテラスを望む二人。

画像: ユースケースから発想する協創

馬木:こもれびテラスのテーブルは、この地にあった樹で作っています。古い建屋の解体工事をするのに、2本だけ、どうしても切らなければならなかった大きなケヤキの樹がありました。それを2年間乾燥させて、製材してテーブルにして再生したんです。

熊谷:季節のいいときには、みんなここで食事したり、休憩したりしていますよ。

馬木:建設中は、3カ月に1度くらい、現場の職人さんや研究所の方たちをお呼びして、ここでバーベキューをやっていました。そのときには建物の白い壁面をスクリーン代わりにしていました。夜には、映画鑑賞もできるなと思っていたんです。

画像: こもれびテラス (撮影:吉村昌也)

こもれびテラス (撮影:吉村昌也)

熊谷:屋外にたくさんミーティングスペースを設けていますが、建設を始める前には、協創の森でどういう働き方をするかというワークショップを構内にある芝生広場で開きました。社外パートナーとの協創という大きな方向性は決まっていたんですが、研究者やデザイナーが外部の方とオープンイノベーションをするにはどうすればいいんだろうというテーマで、関係者を全員集めて議論をする場を設けました。デザイナーは外部の企業との協創をしてきた経験があったので、それを下敷きにして、研究ならこういうこともできるんじゃないかという紙芝居のような動画を作って、皆さんに見ていただきました。茨城や横浜の研究所ともネットワークでつないで、意見を出してもらいました。

馬木:設計前に、実際にそこで働くお客様がユースケースを作るということは、まずないんですよ。設計後も、熊谷さんたちと私たちでミーティングを重ねる中で意見を出し合って部屋を入れ替えたりと、まさに協創をしながら、この建物ができたわけです。2015年から竣工するまで、毎週、打ち合わせに通っていました。設計定例って、着工したら月1回に減ったりするのですが、毎週やっていましたね。

熊谷:僕らデザイナーがもともといたのはすごく小さい組織だったので、実は自分たちのオフィスを自分たちで何度か作っているんです。そこで設計のノウハウはだいたいわかっていたんですが、今回はすごい大所帯でステークホルダーも多いので建築も最後までいろいろ調整が必要でしたね。

馬木:いろいろあってやっと竣工しました。ですけど大林組も協創の森パートナープログラムに参加していますので、わたしもこちらで仕事をすることがありますが、今でも、ここに来ると、気分が変わりますね。とっても気持ちがいいんです。

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