日立は、広島大学および広島県日比野病院と共同で、脳梗塞後のうつ病発症メカニズムの解明に向け、うつ関連症状の脳領域を推定する技術を開発し、右ローランド弁蓋部*1がうつに関連する領域であることを初めて見出しました。具体的に開発した技術は、脳梗塞患者の複数のうつ関連指標の類似度により患者グループを分類したデータ駆動型*2分析と、MRI脳画像を用いた脳損傷解析です。本技術により医師を支援することで、脳梗塞患者は、より適切なケアを受けられるようになることが期待されます。今後、日立は本技術をうつ関連症状だけでなく、脳梗塞患者のさまざまな症状に適用していくことで、病院でのリハビリへの導入を推進し、患者のQoL向上への貢献をめざします。
背景および取り組んだ課題
- 高齢者が介護状態に陥る要因の第二位は脳卒中(第一位は認知症)。
- 国内の脳卒中患者(112万人)のうち、20~40%にうつ関連症状があると推定されるが、この症状は病気に対する心理的反応と見られるため、うつとして気づかれないケースが多くある。また、脳卒中の発症者のうち、60~70%が脳梗塞患者とされる。
- 脳梗塞患者のうつ関連症状を放置すると、リハビリや回復に向けての前向きな気持ちを阻害し、患者の社会復帰が遅れるという課題がある(QoL低下の要因となる)。
開発した技術
- 脳梗塞患者の複数のうつ関連指標の類似度により、患者グループを分類したデータ駆動型分析と、MRI脳画像の脳損傷解析により、うつ関連症状の脳領域を推定する技術
確認した効果
今回、脳梗塞患者の複数のうつ関連指標(ストレス、抑うつ、意欲低下、不安)のスコアデータの類似度を用いたデータ駆動型分析により、脳梗塞患者が4つのグループに分類されることが明らかになりました。また、脳梗塞患者の脳損傷度分布データベースと照合し、患者グループ間の脳損傷度分布を比較した結果、「右ローランド弁蓋部」と患者のうつが関連していることが分かりました。「右ローランド弁蓋部」は、感情処理だけでなく内臓感覚にも関連すると言われる脳領域で、本技術により脳梗塞患者のうつ関連症状の脳領域であることを初めて見出しました。
発表する論文、学会、イベントなど
- 本成果は、科学誌「Scientific Reports」(2020年11月20日付:日本時間11月20日)に掲載。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77136-5
開発した技術の詳細
広島大学の指導のもと、日比野病院にて脳梗塞患者のMRI脳画像とうつ関連指標(ストレス、抑うつ、意欲低下、不安)を取得しました。通常、各指標の判定基準(カットオフ値)で患者状態(ストレス高/低など)が判定されますが、多様な患者状態を分類するため、データ駆動型分析(クラスタ分析)による分類を取り入れました(図中①)。また、日立は脳科学の研究開発で培った解析技術を活かし、MRI脳画像の脳領域を分割し、各領域の損傷度(%)を数値化し、損傷度分布をデータベース化しました(図中②)。これらの技術を統合し、うつ関連症状の脳領域を推定する技術を開発しました(③)。
脳の機能面(うつ関連の症状)から見た分類(①)と、脳の構造面(損傷度)から見た分類(②)を照合させることにより、脳梗塞患者の症状がどの脳領域に起因しているかを推定する技術となります。今後は本技術を発展させることにより、うつ関連症状だけでなく、脳梗塞患者のさまざまな症状に適用を検討していきます。
*1 右ローランド弁蓋部:感情処理や内臓感覚の関連部位
*2 データ駆動型:特定の基準やルールに依存せず、得られたデータの特徴から分類、予測等の解釈を与える計算モデル。クラスタ分析はデータ駆動型分析のひとつ。
照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ
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