2019年10月31日、主催:株式会社 日立製作所(以下、日立)研究開発グループ、後援:国分寺市で、「デジタル多摩シンポジウム 2019 in 国分寺」が、日立中央研究所 "協創の森" 日立馬場記念ホールにて開催されました。来場者数250名超の、日立研究開発グループの研究員や多摩地域の事業者、市役所職員、学者などが集ったシンポジウムをレポートします。
地域活性化にテクノロジーをデジタル多摩シンポジウムでは、2つのパネルディスカッションをはじめ、基調講演、多摩地域の企業・団体による活動展示、多摩地域で活動する人・企業のネットワーキングを行ないました。開始14時、日立中央研究所所長の矢川雄一による開会挨拶で幕開けします。
矢川所長 「それではシンポジウム1回目の開催です。私たち中央研究所は地域に開かれた研究所をめざしています。2018年10月には国分寺市と包括連携協定を締結させて頂きました。本日も、忌憚ない意見を通じて地域活性化を支援するデジタル化について議論していきましょう。」
矢川所長の挨拶を250名超の参加者が拍手で迎え入れてくれた後、「データの地産地消をめざして」と題し、一橋大学経営管理研究科教授の神岡太郎氏による基調講演がはじまりました。神岡教授の講演では、教授が参画した札幌市のオープンデータプロジェクトを事例に、地域でデータを利活用する知見が共有されました。
神岡教授 「日本はかつて、石油を原動力に成長してきました。今の"石油"に当たるのが、実はデータです。札幌市では札幌圏地域データ利活用推進機構(SARD)を立上げ、地域のデータをうまく利活用しています。例えば、地下道の人流データを取り、人がよく動く時間帯と動く様子を分析しました。それらを新しい商業チャンスを見つけることや、空調の温度調整などに利用しています。
地域のデータは、市民をはじめ企業、訪問者、その他の利用者と、視点の数だけ利活用の幅が広がるものです。そのため、テクノロジーを導入するに当たり、『どんな地域をめざすのか』というビジョンが重要になります。そのビジョンを通して、データ利活用に多様な参加者が集い、新たなネットワークを築くことにつなげていくことができます。」
地域特性を踏まえたデータ活用へ
神岡教授の基調講演に続き、パネルディスカッション(1)「地域企業と考える将来のまちづくり」を行ないました。モデレーターを兼ねたローカルラボ多摩、多摩大学経営情報学部教授の長島剛氏と、コミクリ代表取締役の佐藤弘人氏、日立研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタの森木俊臣主任研究員が議論を深めます。
多摩地域は、かつて軍需産業で栄えた街。その軍需工場は民需工場に変わり、研究施設も多い地域になりました。特定分野の先端企業が集まる一方、国分寺市の産業振興部を例に挙げると"市民"と冠した部署が多く、市民のために何をするか深く考えていることも伺えます。双方を合わせると、地域に根付く企業の技術を、市民のために有効活用していくことができそうな可能性を感じさせます。
コミクリはいち早く多摩地域の活性化にIoTを取り入れた企業です。地域で開発したシステムをオープンソース化し、地域に還元していくことに努めたと佐藤さんは話します。そして、日立研究開発グループは研究者やデザイナーが地域に出ていくこと、地域活動組織から主体性を持って事業に取り組む姿勢を学びたいと思っています。地域特性を踏まえて、既存の地域活動組織と先端テクノロジーを持つ大企業が地域の企業と協創することは、地域の未来を明るくする取り組みのひとつになることが予見されていく議論になりました。
パネルディスカッション(1)を踏まえ、パネルディスカッション(2)をはじめるまでの休憩を兼ねて、参加者は展示会場に移り、多摩地域で活動されている団体や企業、日立研究開発グループの取り組みに触れました。会場では、3つの地域企業、2つの市民活動に加え、日立研究開発グループや国分寺市の取り組みを閲覧し、参加者と多摩地域の地域活性にたずさわる人・企業が親睦を育みました。
市民参加の敷居を下げるネットワーキングへ
パネルディスカッション(2)「市民と考える街のにぎわいづくり」では、国のまちづくりに関する方針を捉え、道路や広場からのにぎわいづくりについて議論します。
道路をはじめ公共空間を市民交流の場に変える先例の研究やプロジェクトに取り組んでいる東京大学先端科学技術研究センターの泉山塁威助教や日立研究開発グループ 東京社会協創イノベーションセンタの沖田京子担当部長、国分寺市まちづくり部の藤原大部長を交え、モデレーター兼任、D-LAND代表・コミュニティデザイナーの酒井博基氏で議論を進めました。
国分寺市では、駅北口前に交通広場を開発中です。新しく生まれる「公共空間を利用した市民交流の場」を地域活性の一助にする要所について話題が及びました。海外の事例を含め、自身がたずさわる公共空間の利活用を紹介してくれた泉山助教や、日立のブランドコミュニケーションを担ってエンドユーザーの心や暮らしを豊かにするイベントを企画してきた沖田担当部長からは、市民が想いを発信しやすい環境を設けることが重要なことのひとつに挙げられました。
公共空間を市民交流の場として利活用する際、市民が実現したい地域活動を公共空間の管理チームがどうやって受容し、実現を後押しするのか。それが公共空間を市民交流の場に変えていく要所のひとつになることが見えてきました。
2つのパネルディスカッションを踏まえて見えてきたことは、地域活性のためにデジタルを利活用する際に重要なことは、市民や地域企業の従業員など、地域一帯に関わる人と、どのようなネットワーキングを築いていくかということです。その先に"人"視点からはじまる地域のデジタル利活用が広がっていく予見を共有するシンポジウムになりました。
多摩地域の取り組みをより良い支援で推進する
デジタル多摩シンポジウム1回目は、国分寺市の井澤邦夫市長による閉会挨拶で幕を閉じます。
井澤市長 「緑のまち・国分寺市に日立中央研究所『協創の森』があることは、誇りであり、資源でもあります。ここを起点に、多摩地域の人・企業がつながりを育んで、地域活性をより推進していくことに将来性を感じました。市としても支援体制をより良く構築して、地域の企業と一緒に取り組んでいきたいと思います。」
「協創の森」を舞台に、多摩地域の企業・団体が集ったシンポジウムは、これからの発展を予感させるものになりました。閉会後、展示会場に集い、親睦を深めたネットワーキングの時間にも、その熱は継続されて、終了時間を過ぎても話が尽きない様子が広がっていました。
【展示「参加団体・企業」一覧】
<地域企業>
1.回遊性向上サイネージhubv(調布)/LINEでオーダーRITA(府中)
(データ分析による地域活性化)
2.リモート監視ソリューション(Wi-VIS)
(IoTで現場の情報を無線で見える化!)
3.みんちゅうSHARE-LIN
(駐輪場シェアサービス)
<市民活動>
4.こくベジプロジェクト
(国分寺三百年野菜 こくベジ)
5.code for INAGI(市民力を引き出すシビックテック活動)
(テクノロジーを活用して地域の課題は市民自ら解決していく)
<日立研究開発グループ>
6.Help me now
(生活者の「小さなSocial Good」を促すサービスの構想)
7.ビジョンデザイン
(Society 5.0に向けて「便利」の次を考える)
8.ぶんじバル2019
(市民のつながりを促す「電子バル」アプリケーション)
9.XAI:人口知能の判断根拠説明技術
(AIの判断根拠を多角的に理解することで信頼できるAIを提供)
10.デジタル都市モニタリング
(都市空間の価値向上をめざす)
11.Risk Simulator for Insuranece
(健康状態から8大生活習慣病による入院日数を予測)
<国分寺市>
12.天平メニュー・国分寺ごはん
(武蔵国分寺があった時代をイメージした野菜たっぷりメニュー)
13.〜東京のおへそ〜国分寺市
(東京の中心「〜へそ」に位置する自然や歴史、農に囲まれたまち)
14.国分寺市総合ビジョンと公民連携による取組
(ともに進める ともに高める ともにつなげる 国分寺市のまちづくり)
写真・テキスト:株式会社ディーランド